産業技術総合研究所(産総研)と北海道大学は,パルスレーザー光を利用して簡便・迅速に銀ナノ粒子を含むリン酸カルシウムサブマイクロメートル粒子を合成する技術を開発し,この粒子の歯科治療用材料としての可能性を実証した(ニュースリリース)。
ヒトの骨や歯の主要な無機成分であり,優れた生体親和性や生体分子吸着特性を示すリン酸カルシウムと,抗菌作用や特有の光学特性を示す銀ナノ粒子の複合体は,医療,環境,分析などさまざまな分野での応用が期待されている。しかし,このような複合粒子の合成技術には,操作が複雑,時間がかかるなどの問題があった。
今回,産総研の持つ,レーザー光を利用したサブマイクロメートル粒子の合成技術を応用し,銀ナノ粒子を含むリン酸カルシウムサブマイクロメートル粒子(以下,「複合粒子」)の簡便・迅速な合成技術を開発した。銀イオンをレーザー光吸収剤として用い,反応液への添加濃度を調節することで,リン酸カルシウムのサブマイクロメートル粒子の生成反応と,銀イオンの光還元による銀ナノ粒子の析出反応を同一バッチ内において進行させ,複合粒子の一段階合成を実現した。
安価な無機試薬から得られるカルシウムイオン,リン酸イオン,銀イオンの混合水溶液(4mL)に,比較的弱いナノ秒パルスレーザー光(355nm,30Hz,200mJ/pulse/cm2,ビーム径8mm,パルス幅8-10ns)を20分間照射するだけで,複合粒子が合成できた。
今回開発した技術では,原料イオン溶液を混合した直後に銀を含むリン酸カルシウムの不定形粒子が生成し,それらがパルスレーザー光を吸収して液中で瞬間的に(10ナノ秒程度)加熱されて溶融した結果,球状化したと考えられるという。さらに,この粒子中に含まれる銀イオンの光還元により,金属銀のナノ粒子がリン酸カルシウム粒子中に分散して析出し,複合粒子が生成したと考えられるとする。
なお,原料である混合水溶液中の銀イオンの濃度を増加させると,生成する複合粒子中の銀含有量も増加することから,この技術では,複合粒子中の銀とリン酸カルシウムの比率を調節できるとしている。
今回開発した技術で合成された複合粒子の歯科治療への応用の可能性について基礎的な検討を行なったところ,この複合粒子は,口腔内環境の酸性化を抑制しつつ,歯の主成分であるカルシウムイオンとリン酸イオンを供給して歯の脱灰を防止し,再石灰化を促進する効果を持つことが期待され,口腔内環境の保全・改善剤などへの応用が期待されるという。
今後研究グループは,今回開発した複合粒子の量産化について検討する。また,今回の技術では,金属銀だけでなく,磁性酸化鉄などの他の有用物質を内包させることもできるため,さまざまな複合粒子について,歯科分野だけではなく,医療,環境,分析などさまざまな分野への応用を検討する。