情報通信研究機構(NICT),大阪大学,NTT物性科学基礎研究所,および東京大学の研究グループは,量子情報処理に必要な量子メモリへの書込・読出を光通信技術を利用して実現することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
現在のコンピューターや通信技術において,メモリの果たす役割は大きく,ブラウザーのキャッシュのように効率的な通信には欠かすことができない。量子情報通信においても量子状態を蓄える量子メモリの役割は大きく,現在まで様々な物理系を利用して実験されてきた。
しかし,量子メモリの読み書きに使われる光は可視光付近(780nm)の短い波長のものであり,光ファイバー通信で用いられる近赤外(1.5μm帯)光とは大きく異なる。量子状態は光にのせて遠くに運ぶしか方法がなく,可視光付近の光はファイバー中を進むにつれて急速に失われ,長距離通信ができない。
近赤外では約15kmまで半分の光子が残っているのに対して,可視光付近では10kmも進むと1000分の1の光子しか残らない。そのため,量子メモリは実現していても,その利用ができない状況だった。
研究グループは,量子状態を壊さない高性能な波長変換器を非線形光学効果である和・差周波発生を用いて開発するとともに,冷却Rb原子を利用した量子メモリを開発し,量子状態の書込・読出(モニタリング)に用いる可視光付近の波長780nmの光子を,光ファイバーで用いられる近赤外光(1.52μm)へ変換し,高性能な超伝導単一光子検出器(SSPD)を用いて検出することで,冷却Rb原子中の1原子の励起を通信波長光子の検出により明確に確認することに成功した。
現在までに考えられている長距離量子情報通信システムのアーキテクチャーは,各中継地点に分散した量子メモリの量子状態を光通信を使って交換するもの。今回の研究により,光ファイバー通信技術を利用して,この量子メモリ間通信を構築する新しいステージに進み,グローバルな量子セキュアネットワークへの研究の加速が期待できるとしている。