国立環境研究所は,2013年8・9月に温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)のメタンデータを解析した結果,中国北東部-朝鮮半島域と日本の上空に,2009〜2013年の夏季の平均よりも約20ppb高い高濃度メタンを検出した(ニュースリリース)。
GOSATと同様の原理で地上から上空までのメタン量(カラム平均濃度)を測定している全量炭素カラム観測ネットワーク (TCCON) のデータを解析したところ,同様の高濃度メタンが観測されており,GOSATの観測データが正しいことが分かった。
GOSATは,環境省,国立環境研究所(NIES)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した,世界初の温室効果ガス観測専用の衛星。全球の二酸化炭素とメタンの濃度を宇宙から観測し,その変動を明らかにするとともに吸収・排出量の推定精度を高めることを主目的にして平成21年(2009年)1月23日の打上げ以降,現在も観測を続けている。
GOSATが観測する太陽光の地球表面からの短波長赤外反射光より,地球大気中のメタンのカラム平均濃度を算出することができる。メタンは二酸化炭素に次ぐ重要な温室効果ガス。
研究では,東北中国と朝鮮半島上空及日本上空の陸域で観測された最新版のGOSATメタンカラム平均濃度データ(GOSATメタンデータ)とあわせて同地域内にある地上設置のフーリエ変換赤外分光計による観測網(全量炭素カラム観測ネットワーク,Total Carbon Column Observing Network:TCCON)によるメタンデータ(TCCONメタンデータ)と地上観測データを用いて解析した。
20ppbは日本上空におけるメタンカラム濃度季節変動幅の2倍であり,これだけの濃度増加が2ヶ月程度継続することは特異な現象。
大気輸送モデルを用いた解析の結果,2013年夏季はアジア上空の気圧配置が例年と異なり,中国東部のメタン発生源地域から日本へあまり希釈されずに高濃度メタンが輸送されたことが分かった。これらからGOSATはTCCONデータと同程度の確度で総観規模(数千km規模)のメタン濃度の増加を観測する能力を有することを実証できたという。
今後は,衛星観測による温室効果ガスの増減現象の検出とその原因解明に関する研究を進め,GOSAT及び今後打ち上げ予定の「いぶき後継機」(GOSAT-2)への応用を進める予定。
関連記事「「いぶき」人為起源二酸化炭素濃度を推定」「いぶき,CO2濃度が400ppmを超えたことを確認」「「いぶき」,人間によるメタン濃度の上昇を検出」