早稲田大学,大阪府立大学の研究チームは,3個セットの金ナノ粒子と,昆虫の複眼のように規則正しく並んだマイクロ粒子の「複合ナノ構造体」を2ステップで簡単に作製できる技術を構築し,分子由来の光応答を1億倍以上に増強する原理を解明した(ニュースリリース)。
今回の研究では,自然界の高性能な受光素子の1つである昆虫の複眼と,効率的に光を集める方法として稲妻が避雷針に集まる現象をヒントに,金ナノ薄膜でコートしたマイクロ粒子の周期構造のくぼみに金ナノ粒子を3個ずつ載せた「複合ナノ構造体」を作製した。
この「複合ナノ構造体」は,基板に滴下した液滴中の微小な粒子が乾燥の過程で自然に配列する現象を使って,(1)マイクロ粒子の分散液を基板上に滴下・乾燥して金ナノ薄膜でコートし,(2)金ナノ粒子の分散液を滴下・乾燥するという2ステップで簡便かつ低コストに作製できる。
金ナノ粒子(直径約100nm)を,金ナノ薄膜でコートした昆虫の複眼と類似した空間パターンのマイクロ粒子(直径約500nm)の周期構造のくぼみに3個ずつ載せた「複合ナノ構造体」を作製したところ,可視から近赤外域に渡って非常に強い光応答を示すことが分かった。
作製した複合ナノ構造体は,高効率に光を捕集し放出する「光アンテナ」として機能する。例えばこれにより,エネルギーの低い光からエネルギーの高い光を作り出す発光現象があることを明らかにした。
この現象を理論的に解析し,照射する光の色を変えることで,金ナノ粒子同士の小さな隙間や,金ナノ粒子と金ナノ薄膜の間に,光のエネルギーをケタ違いに集中できる「ホット・サイト」が多数形成されていることを解明した。
さらに,複合ナノ構造体の表面に小さな色素分子(ここでは約1nmの大きさのローダミン6Gと呼ばれる分子)をばらまくと,その色素分子内部の振動に伴って発生する散乱光が「ホット・サイト」で1億倍以上に増強されることも分かった。
この研究成果は,太陽光エネルギーの高効率変換や,ナノメートルオーダーの大きさの分子を表面に吸着して光で高感度に検出するタイプの化学センサーへの応用が期待でき,持続可能な社会実現のためのグリーン・イノベーション技術や,予防医療による健康長寿のためのライフ・イノベーション技術などの基礎となる成果だとしている。
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