埼玉大学の研究グループは,独自に合成した骨格にスズを含むジアニオン性芳香族化合物とハフニウム試薬との反応を検討し,得られた錯体の構造を調べたところ,ゼロ価スズがブタジエンからπ型の4電子供与を受けて安定化された化合物であることがわかり,ゼロ価典型元素の新しい安定化の方法を発見した(ニュースリリース)。
最近の日本人研究者のノーベル賞受賞にも繋がった遷移金属錯体を用いる触媒反応において,共有結合をもたずに電荷もないゼロ価の遷移金属を含む中間体が触媒反応の活性種となる多くの例が知られている。
一方,遷移金属よりも一般に豊富に存在する典型元素を触媒とする反応を開発することは,省資源の観点から,持続可能な社会の構築に向けて重要な課題となっている。
そのような反応を開発するうえで,ゼロ価の典型元素を含む化学種は触媒反応の鍵中間体となる可能性が高いので,その研究は重要と言える。これまで,いくつかのゼロ価典型元素化学種が安定な化合物として合成・単離されているが,その安定化の手法は,遷移金属の錯体の配位子としても重要なN-ヘテロ環状カルベンやホスフィンによるσ型の電子供与によるものに限られていた。
今回,研究グループが既に報告しているスズを骨格に含むジアニオン性芳香族化合物とハフニウム試薬との反応を検討し,得られた錯体の電子状態を調べたところ,これまでに例のない,ゼロ価状態のスズがブタジエンが関与したπ型の電子供与により安定化された化合物であることを明らかにした。
この成果は,ゼロ価典型元素化学種をπ型の電子供与で安定化させることが可能であることを示した初めての例。またこの化合物は,遷移金属錯体ではよく知られているものの,典型元素ではほとんど知られていないブタジエン錯体としても意義深い化合物だとしている。
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