京大ら,「隠れた秩序」と呼ばれる物質物理学の30年来の謎を解明

京都大学,東京大学,高輝度光科学研究センター(JASRI),日本原子力研究開発機構らは共同で,ウラン化合物URu_2Si_2におけるこれまで未解明であった電子状態を,SPring-8における放射光を用いた超高分解能結晶構造解析により直接解明した(プレスリリース)。

電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」物質として知られているURu2Si2は,17.5ケルビン(約マイナス256度)という低温で相転移を起こすことが1985年にオランダ,ドイツ,アメリカの三つの研究グループによりほぼ独立に発見されたが,URu2Si2は新しい電子状態である「隠れた秩序」を示し,物質物理学の30年来の謎だった。

この強相関電子系物質における重要な問題を解決するために,研究グループは磁場を加えない状態でのX線回折を用いた結晶構造解析の研究を始めた。グループは大型放射光施設 SPring-8(BL02B1)においてエネルギーと回折計の最適化を行なうことで通常よりも 1 桁分解能を上げ,さらに測定に用いる試料も日本原子力研究開発機構において開発された従来に比べ約 30 倍以上純度の高い単結晶試料を用いることで精密測定を行なうことに成功した。

その結果,回折ピークが相転移温度以下で分裂することを見出した。この結果から,この系の結晶構造が同定され,相転移よりも高温で保たれていた正方形状の4回回転対称性が,低温では菱形状の2回回転対称性に低下していることを突き止めた。

2011年に研究グループが間接的な証拠により,菱形状の秩序であることを類推しているが,これまでの結晶構造解析では正方形状であると報告されてきており,今回の研究で菱形状の結晶構造が直接観測されたことは,「隠れた秩序」がどのような空間的な対称性を持った電子状態であるかを示す決定打となるもの。

この結果により,これまでは間接的な証拠によって類推されていた隠れた秩序状態の空間対称性が決定されたことになる。また,得られた 2 回回転対称性は,通常の物質で簡単に予想される対称性の破れ方とは異なり,自明でないタイプのものであり,今後なぜこのような相転移が起こるかを明らかにすることにより,物質中の電子が示す新しい状態の理解へとつながることが期待される。