理化学研究所(理研)は,脳全体の遺伝子の働きやネットワーク構造を3次元データとして取得し,サンプル間で定量的に比較するための基盤技術「CUBIC(キュービック)」を開発した。これにより,成体のマウスと小型のサルの脳(マウス脳の約10倍の大きさ)を透明化し,1細胞解像度で観察することに成功した。
脳は神経細胞の複雑なネットワークにより構成され,さまざまな生体機能をコントロールしている。研究グループは,脳内の遺伝子発現や神経ネットワークを網羅的かつ定量的に取り扱うことによって,脳をシステム論的に理解するためのイメージング技術の開発を目指した。
研究グループは,新たに開発した化合物スクリーニング法によって40種類の化合物を探索し,アミノアルコールが成体脳の尿素処理による透明化を促進することを発見した。これにより,これまで難易度の高かった成体マウスの全脳をより高度に透明化する試薬の作製に成功した。
さらに,脳内の構造や遺伝子発現の様子を,全脳イメージング用に最適化したシート照明顕微鏡を用いることで1細胞解像度で3次元イメージとして取得し,情報科学的な方法を応用した定量的な比較解析が可能となった。
研究グループは,これら一連の技術をCUBICと命名。CUBICはマウス脳だけでなく小型のサルの脳にも適用可能で,遺伝学的に組み込んだ蛍光タンパク質を検出するだけではなく,免疫組織化学的な解析にも適応できる。
CUBICを用いて光を当てたマウスと当てていないマウスの脳の全脳イメージング像を取得したところ,光に反応して活性化する脳領域を全脳レベルで定量的に同定することができた。この成果は,生物学だけでなく,医学分野においても大きく貢献すると期待できるもの。