東北大学の研究グループは,レーザーを用いた超高速光学応答分光法を用い,光照射により物質が「非熱的」な状態にある極短時間の寿命を正確に測定することに成功した(ニュースリリース)。
DVDやBlu-ray等に用いられている「光相変化材料」に,十兆分の一秒という超短光パルスを照射すると,一千億分の一秒程度という超短時間で結晶-アモルファス間の相変化が起こり,これが次世代光記録デバイスの作動原理になると期待されている。
しかしこの超短時間の相変化がどのように起こるのかについては未解明であり,これを決定する新たな実験手法が望まれていた。
今回研究グループは,熱電材料であり,また光相変化材料であるテルル化ゲルマニウム(GeTe)などと同様に共鳴結合をもつテルル化鉛(PbTe)を対象とし,フェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法を用いた。
この手法ではレーザーパルスを2つに分離し,一方の光パルス(ポンプ光)で物質を光励起し,もう一方の光パルス(プローブ光)で光励起状態にある物質の反射率や透過率を測定する。光励起状態にある物質は,励起前と比較して反射率や透過率に過渡的な変化が観測され,超短時間内に物質内で起こる電子的・原子的な変化を追跡できる。
通常,ポンプ光とプローブ光は同一の波長が用いるが,今回,プローブ光を非線形光学効果により白色光パルスへと変換して用いた。これにより,従来の手法よりも圧倒的に幅広いエネルギー領域における物質の応答を一挙に観測することが可能になった。
試料の透過率の温度依存性を測定した結果,試料温度が高温になるにつれて可視光が透過しやすくなった。一般に,結晶が共鳴結合状態にあると可視光は透過しにくいので,この結果は,温度上昇に伴って増大する原子振動により,共鳴結合が弱まる傾向にあることを示す。つまり,共鳴結合は「原子の規則的な配列」に依存し,原子の熱振動の増大によって弱まることを意味している。
この結果に基づき,ポンプ・プローブ分光測定で光励起後の透過率の時間変化を解析することにより,最終的に光照射によって非熱的な状態に励起された試料が,熱的な状態に緩和するまでの時間が約12psであることを直接決定した。同一の解析手法により,光相変化材料の超高速アモルファス化過程を決定することが期待される。
この成果により,光照射によって進行する超高速現象の研究および光相変化材料を用いた新規高速作動デバイスの原理の理解が一層加速するとしている。