「光渦レーザ」という個人的には聞きなれない言葉を耳にした。去る3月1日に開催された日本フォトニクス協議会と光産業技術振興協会 光材料・応用技術研究会主催による講演会(テーマ:日本が誇る最先端レーザとその加工・計測応用)の中で,千葉大学大学院融合科学研究科・教授の尾松孝茂氏が語ったものだ。
レーザは,言わずもがな光の波が位相を揃え(等位相面),一般的に光子が同じ方向に進んでいき,等位相面は平面となる。このため,強度分布は円形となる。しかし,光渦レーザはその名が示すとおりだが,光子はそれぞれが異なる方向に進み,等位相面がらせん状になり,強度分布はドーナツ形状になる。つまり,光渦レーザは公転運動をしながら発振されるというのだ。
尾松氏はこの特長的なレーザの開発とその応用研究を進めている。尾松氏によれば,「光渦レーザではメカニカルな機構なしで,公転運動を得ることができる」としている。光渦レーザによる応用は光マニュピレーションが知られているが,さらに応用できる分野として挙げられているのが,蛍光顕微鏡や光通信などだ。このうち,蛍光顕微鏡用途では通常のガウシアン形状のビームに,二つのドーナツ型のビームをかぶせることで分子がより高い励起状態で蛍光信号を発し,高い空間分解能を実現することができるという。この応用研究が進んでいる。一方,光通信では空間多重光ファイバへの応用研究も進んでいる。
特に,尾松氏が研究で着目しているのが加工で,ナノプロセッシング加工応用への展開を目指している。実際,開発した渦状偏光を持つ波長1064nmでビーム品質がM2=2.2,出力100Wのファイバレーザを用い,材料加工に適用する実験を行なっている。らせん状に発振したレーザ光を材料に当てると,公転運動しながら加工されるわけだが,画鋲のように中心だけが針状になるという加工現象が得られることを確認した。これをナノニードルと呼んでいる。
尾松氏の加工実験で得られたナノニードルのサイズはNA0.5で36nmだが,NAを上げることで10nmまで微細化できると見ている。尾松氏によれば,このナノニードルは電界放射型の電極に使えるとしている。では,この加工現象はどれくらいの時間スケールで起こるのだろうか。実験ではナノ秒パルスレーザを使用した場合,概ね15~20nsでニードル形状ができることがわかった。
そこで,ピコ秒やフェムト秒ではどうなるかというと,ピコ秒レーザではらせん形状の加工現象を得ることができるが,フェムト秒レーザでは得られないことを確認している。つまり,材料がレーザ光から放射圧を受取って回転しはじめる時間はピコ秒位だというのだ。さらに1秒間に1万個のナノニードルを加工できるとしている。また光の入射方向を変えることでニードルの方向も自由に変えることもできる。尾松氏はこの加工現象を利用することで電極をはじめ,コイル,メタマテリアル,バイオMEMS,高効率太陽電池などといったアプリケーションへの展開が可能だとしている。