本連載は,近年進捗が著しいレーザー航跡場加速に関する包括的なレビューを翻訳したものである。原著者はレーザー加速のコンセプト提案者である田島俊樹氏,先駆的なレーザー航跡場加速実験を行なった中島一久氏,レーザー加速の実現に必須だったチャープパルス圧縮の発明者であるジェラルド・ムルー氏の共著である。
2018年10月2日に発表されたノーベル物理学賞ではレーザーに関わる3氏の研究者が受賞,そのうちの一人が,ジェラルド・ムルー氏である。今日の高強度レーザーの礎がムルー氏によってもたらされていること,その功績に対して敬意を表したい。
5. イオン加速
序論(第1章)において,電子加速との対比からレーザー駆動イオン加速に必要な条件について既に触れている。本質的な問題は,電子質量で規格化されたレーザー場ベクトルポテンシャルa0よりずっと小さなレーザー場の規格化ベクトルポテンシャルa0i =(me / Mi)a0を持った,重いイオンを捕獲するという点である。この場合,与えられたレーザー場においてその捕獲は電子の場合よりずっと困難である。それ故,我々は加速波の位相速度を低速から徐々に高速へと変化させながら,断熱的にイオンを捕獲するという課題と向き合わなければならない。
提案されたひとつの手法は,イオンが加速によりその速度を増していくのに合わせて,加速可能な形状の波(またはパルス)の位相速度を距離の関数として制御する事であった。これは例えば,加速構造としてアルヴェーン波9)を使う事で実現し得る。つまり,プラズマ密度を高密度から低密度へ,もしくは磁場を低磁場から高磁場へ,徐々に(断熱的に)変化させる事で,アルヴェーン位相速度を断熱的に増加させる事が出来て,結果として断熱的イオン加速を達成できる可能性がある。
この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。