産総研ゼロエミッション 国際共同研究センター(GZR)と光技術
第一回「有機系太陽電池研究チーム」

─コストの目標はありますか?

コストでポイントとなるのは発電コストです。その1つのラインが,系統電力よりも安くなるグリッドパリティですが,家庭用だとだいたい23 円/kWhくらいです。これが20 円kWh 以下になることがひとつ,そして事業用電力だとグリットパリティは15 ~ 16 円kWhですので,14 円kWhくらいになれば,事業用としても普及する可能性が高いと考えています。そのためには,今のパネルのだいたい半分くらいのコストになればいけると考えてはいます。ただ,これは開発する私たちではなく,メーカーや事業者の人たちがどう考えるか,市場次第だと思います。

─環境面から材料の鉛についてどうお考えですか?

確かにそこは懸念する点ではあります。ただ,自動車のバッテリーなどにいまだに使われていますし,シリコン太陽電池のはんだにも鉛が含まれていて,鉛製品が全てダメかと言うとそうではありません。例えばカドミウムテルル太陽電池のカドミウムにも毒性がありますが,これは回収する仕組みを作ることでアメリカでは普及しています。こうした前例を学びつつ,廃棄も含めて鉛が環境中に漏れ出ないようにする技術と,現状のルールにおいて法的な問題があるのか,精査する必要があると思っています。

─世界では製品化も始まるという話もあります
変換効率29.5%を報告したオックスフォードPV は2022年の製品化を目指す(出典:https://www.oxfordpv.com/news/oxford-pv-hits-newnewworld-record-solar-cell)
変換効率29.5%を報告したオックスフォードPV は2022年の製品化を目指す(出典:https://www.oxfordpv.com/news/oxford-pv-hits-newnewworld-record-solar-cell)

有力企業のひとつが,先ほど言った私の友人が立ち上げたベンチャー,オックスフォードPVですね。そこは結晶シリコン太陽電池の上にペロブスカイトを付けて高効率化させる戦略で事業化しようとしています。イギリスの会社ですが,ドイツに量産ラインを作っていると聞いています(編集部注:オックスフォードPVはドイツブランデンブルクに年間製造能力100 MWの工場を建設,2022 年の稼働を予定している)。

あと中国も2015年くらいには大きなモジュールを作ったという報告をしています。ただ,モジュールをたくさん並べても発電量は少なかったと聞いたので,製品化はまだ難しいでしょう。日本ではパナソニックが昨年,30cm×30 cmのモジュールを作って17.9%の効率を出しています。これはモジュールの中では世界一の効率です。あとは,NEDOプロで一緒に研究をしている積水化学も,やっぱり幅30 cmくらいのフレキシブルな太陽電池の試作を発表しています。現在は耐久性を見ているという話なので,これからかという感じですが,耐久性と量産化技術という同じ課題をみんな抱えているのではないか思います。

─シリコン太陽電池のように海外に市場を奪われないか心配です
ペロブスカイト太陽電池では日本の素材産業が高いシェアを持つ(出典:2020年版グローバルニッチトップ企業100 選について 令和2 年6 月経済産業省製造産業局 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/gnt100/pdf/2020_gnt100_result.pdf)
ペロブスカイト太陽電池では日本の素材産業が高いシェアを持つ(出典:2020年版グローバルニッチトップ企業100 選について 令和2 年6 月経済産業省製造産業局 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/gnt100/pdf/2020_gnt100_result.pdf)

この20 年でシリコン太陽電池を中心に太陽電池は世界に広く普及しました。たしかに2009年くらいまでは日本企業は世界のトップシェアを誇っていましたが,世界的に太陽電池が普及するにつれ,韓国や中国,特に今は中国の企業が安く生産してシェアを奪っています。これは太陽電池の話だけではないと思いますが,結局,日本企業は相次いでシリコン太陽電池の生産から撤退していて,残っても生産は海外でしているような状況です。

一方,ペロブスカイト太陽電池のサプライチェーンはシリコン太陽電池とは違って化学製品や化成品をメインに使います。化成品は日本のメーカーのシェアが世界的にも高く,素材もまだ高いシェアを持っています。こうした製品は鼻薬的なノウハウが重要だったりするので簡単には真似できないでしょう。鼻薬とは,原料を作るときにちょっとだけ入れるので分析しても出てこない,最終的な製品には残っていないような材料のことで,リバースエンジニアリング的なことはしにくいと思っています。

こうしたノウハウによって日本の化学材料メーカーは高いシェアを持っていて,海外のペロブスカイト太陽電池の研究にも使われることが多いですね。そういった強みを活用し,かつ印刷などの技術を使って太陽電池を作ることができたら,日本にとって強い産業になる可能性があります。

─現在注力されている研究について改めて教えてください

耐久性を上げるために,ペロブスカイトの表面を処理する材料の開発や,なぜ,ペロブスカイト太陽電池の性能が下がるのかを見つける技術をメインに研究しています。将来的には試作装置も作ろうと思っています。これによって将来,ペロブスカイト用の材料開発をしてくれるような会社が増えれば,業界的にも産業としても強くなっていきますし,最終的には装置メーカーも必要になってくると思います。

─光学製品に研究に期待するものはありますか?

ペロブスカイトの成膜というのは非常に微妙な条件が必要です。この工程を光学的,つまり分光とかで連続的に追跡するような,モニタリングできるシステムがあったら,量産するときの条件出しとかでとても強いツールになるんじゃないかなというのがひとつ,あと劣化の様子を見たくても封止をしてしまうと赤外線が通らないので,セルを壊さないと見ることができません。なにかいい方法があると嬉しいですね。

(月刊OPTRONICS 2021年10月号)

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