―長年海外にいらっしゃったということで,日本と海外の研究・教育に対する考え方の違いを教えてください
研究室レベルでは,あまり変わりません。なぜかというと国際的に行なっているからです。ただ科学,技術,イノベーションの関係性は大きく変わると思っています。よく科学技術と言いますが,科学と技術は全然違う理念です。科学は技術の縁の下の力持ちで,技術はイノベーションの縁の下の力持ちです。
今科学はかなり学際的になってきていますが,日本のファンディングは基本的に縦割り構造になっています。日本の省庁(文科省,経産省,厚労省)はタコつぼ型研究には最適ですが,学際的な横の関係性が非常に弱いので,最もインパクトのある異分野融合型研究にはお金が付いていません。
あとは昨今,政治家や役人のタイムスケールに合わせて,どうしても数年間で成果に出るものしかお金を付けないという傾向にあります。いわゆる「選択と集中」です。「選択と集中」は数年で成果が出るものを選択しています。これは凄く大きな問題です。科学だけではなく,基本的に時間がかかるものは全部カットされていて,例えば,教育はロングタームな投資ですけども,そこが削られています。ワクチン開発もいつ成果が出るか分かりませんが,コロナの時のように大変な感染症が来たときにワクチンが作れない状態です。
では,アメリカはどうしているかというと,巨大財団が台頭して活躍しているほか,巨額の寄付金が科学を支援しています。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が運営する研究施設Broad Instituteには元 google 会長のSchmidt Centerが3億ドルを寄付していますし,ベンチャーキャピタリストのJohn Doerrがスタンフォードにサステナビリティを学問として学ぶサステナビリティスクールを作るときは10億ドルを拠出しています。
2020年ノーベル生理学・医学賞はMichael Houghton先生はLi Ka Shing財団より,Rice先生はRockefeller財団より支援を受け,同年のノーベル化学賞のDoudna先生はHoward Hughes Medical Institute財団より支援を受けています。
日本ではコロナが流行り,国会で議論し,予算が出始めたのが約半年後。そこから広報が始まり,研究開始が1年後では遅すぎます。これは所謂公的資金の限界です。アメリカでこういった問題を解決するのが資金団体Fast Funding for COVID-19 Scienceです。ベンチャーキャピタル,Elon Mask,Jack Dorsey,慈善団体のSchmidt Futuresなどが出資し,大体1000万ドルから5000万ドルのお金が2週間で審査されて受けることができます。
アメリカは圧倒的にスピード感がありますが,こういった研究に対する資金供給が日本では簡単ではありません。あまりにも時間がかかる,研究のほとんどが公的予算なので自由度がない,スピードもありません。でも研究は誰が一番速いかのレースで,中国が強いのはポリティカルコストがないからです。要するに,国会で議論する必要がないのです。 2018年のWHOへの支出金を見ると,1位アメリカ,2位Gates Foundationで日本は7位です。私立財団がいかに世界に影響力を持っていたかということです。これが日本になく圧倒的に弱いところです。