ミッションは光を用いたバイオテクノロジーの創出

―イメージング分光の最新の成果をご紹介いただけますか

現在,マウスとラットが実験動物の99%を占めていて,世界で年間1億2000万匹のラットが使われていますが,高い・子供から成長させるのに3ヶ月以上かかる・世話が大変・昨今の動物愛護の問題など,大規模で動物実験をやるのがなかなか難しい状況です。 そこで,我々はショウジョウバエに注目しました。

実はショウジョウバエの疾患遺伝子の8割は人間とほぼ同じなので,人の疾患の8割をショウジョウバエでモデリングできます。さらに,価格はマウスの1/1000で50倍早く成長します。あと小さくてハンドリングがしやすいという特長もあります。

我々が作った高速動物スクリーニング技術は動物実験の自動版です。多数の幼虫段階のショウジョウバエの体内を,非破壊で自動的かつ連続的にイメージングします。マウスと比較して何が良いかというと,サスティナブルな点です。必要なリソースである水やスペースが圧倒的に少なく,排出されるCO2は数千分の1です。

薬を一つ創るのにかかるコストと時間は1000億円以上,10年以上です。これはあまりにも遅いし,高すぎます。これを加速化,低コスト化するには動物実験のプロセスを早めるのが有効だと考え,事業を行なっています。

―今ベンチャーをどのくらい立ち上げていますか

高速動物スクリーニング技術を扱うFlyWorksは創業して1年,医療機器メーカーのCYBOは6年になりました。CYBOは,体液に含まれる臓器から剥がれた細胞をAIで解析し,がんを発見する装置を製造・販売しています。もう一社のLucasLandは,皮膚や食品等に張り付けて簡便にがん検出や食品検査を行なえる,ウェラブルラマンセンサーを提供しています。

―先生が進めている研究のテーマで,新たにベンチャー企業をやろうかなと考えているものはありますか

エクソソームという老化を防ぐ物質に関する企業です。細胞はエクソソームという小さな粒子を出して,お互いに情報交換をしています。エクソソームは日本語だと細胞外小胞,EV(extracellular vesicle)とも言われています。この中に小さなRNA・DNAやタンパク質が含まれていて,約数十nmのサイズです。

健康な細胞組織から老化した細胞が出てくると,そこからエクソソームが大量に分泌され,健康な細胞に悪いメッセージを送り,周りがどんどん老化していきます。一個の細胞が老化すると,そのエリアが全体的に老化していくと一般に言われています。

国際コンテストのXプライズは,色々な投資家がお金を出しプロジェクトを立ち上げ, そこで皆が競争するというものですが,我々は今,アンチエイジングという人間を10歳若返らせるプロジェクトにエクソソームを使用して参入しています。

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