――レーザーのメリットとして一番にコストがあるのですね。
我々としてはコストもそうですが,どちらかというと安全であることがまず大事だと考えています。例えばデブリは止まっているとは限らず,振動していたり,回っていたりします。そういうものをどうやって捕まえるのかを考えたときに,レーザーの場合,遠隔で姿勢を制御できるというメリットがあります。
デブリが高速で回っている場合は待ち構えて少しずつレーザーを撃ち,動きが止まってきたら狙いやすくなるのでさらに撃って,ゆっくりと動きを止めてあげれば捕まえられます。シミュレーションでは数トンのデブリの動きを±1度以下で収束できておりますので,今まで誰もできなかった大きなデブリでも捕まえることができると考えています。 遠隔で制御できる距離は,例えば100mくらいの距離でも可能です。
さらに伸ばすこともできますが,望遠鏡やレーザーの性能から,これくらいが妥当ラインかと考えています。こうして距離をとることで衝突せずに安全にデブリの回収ができます。例えば3tもあるデブリだとレーザーだけで移動させることは難しいので,こうして捕まえた方がいいと考えていますが,軽いものだとレーザーだけで軌道を変えて大気圏に落とすこともできます。このように,レーザーの特長は,遠くから力を与えられる,回転が止められるというのが一番大きなポイントですね。今は会社の方針として,まずは大きなデブリの動きを止めるところから始めようと思っています。
―開発はどういったフェーズにありますか。
まずデブリの方ですが,全くのゼロからどんどん積み上がって,現在はコンポーネントとしていくつかできています。このメンバーで技術的な成熟度が上がり,あとはもう「作るだけ」というところまできました。一番難しかったレーザーの原理検証も終わり,今はものづくりの一歩手前であるブレッドボードモデル(BBM)が完成間際です。
具体的には,レーザーの光源とその電源,レーザーを走査するミラー,集光装置を駆動するフォーカスの部分,これらを望遠鏡を組み込んで,方向と焦点を変える仕組みです。それを制御するオンボードコンピューターと,あとはカメラという構成です。こうしたものがそれぞれBBMであら方できてきたのが現在で,これらを宇宙用のモデルにするエンジニアリングの世界に入っていくのが次のフェーズになります。
それと,これまでデブリの話をさせていただきましたが,我々はビジネスとしてもう一つ,ライダー事業を掲げています。こちらは昨年,スカパーJASTがJAXAから「地球観測用高度計ライダー衛星のシステム並びに事業化に係る概念検討」を受託しましたが,今年は,「高度計ライダー衛星の概念設計に係る研究開発契約」をOrbital Lasersで受託をし,引き継いでおります。今年度末までに概念設計を終えます。あらかたキーとなる技術の要素試作も含んでおります。
そして,来年度から本格開発,次はエンジニアリングモデル(EM)というスピード感で進められると思います。
会社を創るときに我々の強みを議論しました。宇宙用のレーザーをコンパクトに高い効率でできること,宇宙のビジネス感覚ですね。特にレーザーは誰にもできないところなので,じゃあレーザーを使って他にも何かできないか考えたときに浮かんだのがライダーでした。
データがどのくらいの密度で取れるか,どのくらいの高さ分解能があるかといった詳細は公開できませんが,データ密度を細かくすればするほどスキャンできる幅が小さくなります。逆に広くするとデータ密度が粗くなるので,どっちを優先するか,そこはビジネスと直接するので,これを最終的に決めようとしています。 地表面のライダー観測では,飛行機やドローンによるライダーの観測があります。もし観測データに細かさを求めるならドローンが一番いいのですが,広さを求めた時は飛行機,さらには衛星となります。それぞれが得意な領域があるので,棲み分けることができると思っています。