―ワイヤレスネットワーク研究センターをご紹介いただけますか
ワイヤレスネットワーク研究センターは、電波や光を利用した無線通信技術を研究開発し、それによって社会課題の解決に貢献するというのが大きなミッションとなっています。拠点はNICT本部がある東京都小金井市と、ワイヤレスシステム研究室がある神奈川県横須賀市、鹿嶋宇宙技術センターがある茨城県鹿嶋市の3つがあります。小金井市には宇宙通信システム研究室がありますが、地上と宇宙の通信技術が分かる研究者が一体となって研究開発ができるという他にはない強みを持つ組織体制になっています。
宇宙通信システム研究室では光衛星通信技術と共に、電波の高い周波数を使った衛星通信技術をJAXAと一緒に開発しています。将来という観点では、衛星と地上5Gを繋ぐ通信技術の研究開発も行なっています。宇宙と地上をシームレスに繋いでいくための日本の月との光通信拠点を構築していくため、鹿島の拠点に日本最大の直径2mの望遠鏡を有した光通信用の光地上局を開発しました。このような先進的な設備を世界に先駆けて開発していくのが、国研の役割だと思っています。また、国研としては様々な標準化団体がある中で各研究者が参画し、世界で同じ規格で繋がるものを作っていこうと議論を進めています。
2023年からスタートしているものでは、低軌道(LEO)のコンステレーション基盤技術の開発があります。Space Compassが取りまとめ機関として受託されて進めていますが、そのネットワーク技術の研究開発をNICTが分担して一緒に取り組んでいます。ワイヤレスシステム研究室では、工場や様々な機器・装置間の通信に用いるローカル5G通信システムの研究開発を行なっています。
現在は、内閣府のムーンショットという国家プロジェクトのうち、2050年までに人体の限界から解放された遠隔操作が当たり前になっている社会の実現を目指し、アバターへの無線通信インフラを構築する研究開発を行なっています。また、仮想空間上で電波システムを模擬することが可能なワイヤレスエミュレータプロジェクトも進めているほか、ドローン同士が直接通信する中継システムの開発も行なっています。
ワイヤレスネットワーク研究センターの役割として、無線通信技術の研究開発に関する国際会議や『WTP(ワイヤレス・テクノロジー・パーク)』といった展示会の開催・協力、産学官連携、技術移転などを実施しています。NICTは総務省の管轄の国研ですので、有限な資源である電波をうまく使用するための法令や省令の策定において、そのルール化に向けた研究開発とその実証に貢献しています。特に国立の研究機関として、研究センターは無線に関する重要な役割を担っています。
―研究センター長の立場によるお仕事や研究開発のマネジメントで大切にしていることは?
情報通信技術(ICT)を推進する公的な立場の機関で、特にワイヤレス通信ということでは電波法に密接に関わっています。例えば、私が今のポジションで行なっているものの一つに情報通信審議会の委員会等の活動があります。これらの委員会は無線通信や放送技術に関する基本的なルールを決める重要な組織で、こうした活動を通じて制度整備等へ社会貢献するというのが一番大切なことだと思っています。
もう一つ、Beyond 5Gに向けては国の役割を活かして公的な観点で日本全体の方向性をリードし、民間企業の方向性と連携協力することにより、日本が世界をリードしていけると思っています。研究開発のプロジェクトを進めるにあたっては、チームワークの構築が非常に大切だと考えています。
そういう意味ではチームが輪を持って上手く進められるようにしたいと思っています。私自身も世界初の実証実験に何回も携わることで自分も成長したと思うので、これから中心となっていく若い世代の研究者にそういうことをもっと経験させてあげたいですし、それが世界をリードしていくと思っています。