ステッパー・マルチレンズスキャナー(ニコン)その1


1. FX露光装置の概要

ニコン㈱(ニコン社)のFPD用露光装置は,1986年に半導体露光装置用のステッパーをベースに縮小光学系を1:1の等倍系に変更し,ステージと搬送系をウエハ用からガラス基板用に改造するコンセプトで設計された。その第一号機がNSR-L7501Gである1)。この装置は300 mm×300 mmのガラス基板対応で,75 mm×75 mmの露光領域に対して3〜5 μmの解像力,0.8 μmの重ね合わせ精度で露光できた2, 3)。1986年当時の代表的なSiウエハサイズは6インチ(152.4 mmφ)で,最小線幅はおよそ1 μm程度だった4)。即ち半導体用ステッパーの改造は,解像度で3〜5倍でありながら対象基板面積が約4.9倍の露光を可能とする改造であったと捉えることが出来る。

図1 ニコン社のステッパー露光方式5)
図1 ニコン社のステッパー露光方式5)

図1にステッパー装置の概要を示す5)。ステッパー方式は一般にステップアンドリピートシステムと呼ばれる。光源からの光を光学系で均一化し,フォトマスクのパターンに照射してプロジェクションレンズで想定した縮小率で倍率補正された光束をウエハに照射する。ウエハ上の露光パターンニングは,露光領域をステップするように行うため,同一パターンをウエハ上に多数露光する優れた方式だった。

ステッパー方式は半導体のような小さなフォトマスクパターンを,高速に相対的に大きなウエハに対して転写できる優れた生産性を有していた。フラットパネルディスプレイに対しては,当初ポケットTVや腕時計などの小型ディスプレイが製品対象であったが,その後ワープロやノートPC製品が対象となり,ディスプレイサイズがフォトマスクパターンよりも大きくなったため,フラットパネルディスプレイ専用の露光機が必要となり,NSR-L7501Gの開発に至った。更に露光領域を75 mm×75 mmから100 mm×100 mmに拡大し,フォトマスク(レチクル)交換を高速化したNSR-L1001Gが1989年に開発された6)。また露光装置の名称は,1990年に露光装置を液晶用に特化したことにより,NSR(Nikon Semiconductor Lithography System)から,FX(Flat Panel Exposure)に変更された。

図2 ニコン社のマルチレンズアレー露光方式7, 8)
図2 ニコン社のマルチレンズアレー露光方式7, 8)

大型ガラス基板への対応は,1993年に従来の単一レンズを使ったステップアンドリピート(Stepper)からマルチレンズアレー方式(Multi-lens Scanner)に大幅な変更によって行われた。図2に示すように,投影レンズを複数本配置し,各レンズの露光範囲を滑らかにつなぎ合わせることで,あたかも極めて大きなレンズに匹敵する露光範囲(正確には露光幅)を実現した7, 8)。各投影レンズに予め台形に成形された光束が投影され,“千鳥”配列された投影レンズ配列に対して,直交方向に露光プレート上のガラス基板をスキャンすることで露光が行われる。この方式はガラス基板の大型化によるガラス基板幅の拡大を投影レンズ配列の拡大(即ち投影レンズの本数増加)によって,フレキシブルに対応できる優位性を持っている。

図3 ニコン社のFX露光装置の開発推移(筆者作成9, 10))
図3 ニコン社のFX露光装置の開発推移(筆者作成9, 10)

図3はガラス基板面積の推移とFX露光装置の開発経緯を示す9, 10)。ガラス基板の大型化は2000年以降に急激におこり,2008年まで続いた。2008年以降は所謂第10.5世代で,ほぼガラス基板の大型化が止まった9)。ニコン社は2000年に,それまでのステッパー方式から,マルチレンズアレー方式に変更した。マルチレンズアレー方式のFX-21Sは5本の投影レンズを搭載し,第4世代用ガラス基板(800 mm×950 mm)に対応した。その後2003年に第5世代(1,300 mm×1,300 mm)用のFX-51Sと,第6世代(1,500 mm×1,850 mm)対応のFX-61Sが開発された。これらFX-51S/61Sはどちらも,FX-21Sより2本多い7本の投影レンズを搭載していた。更に2005年には投影レンズを11本に増やすことで第7.5世代(1,950 mm×2,250 mm)と,第8世代(2,200 mm×2,500 mm)用としてFX-71S/81Sが開発された10)

図3において,ガラス基板の大型化の導入タイミングとニコン社の露光装置の発売時期を比較すると,ガラス基板導入時期の前に露光装置が開発されていることがわかる。更に露光装置の発表時期は,ガラス基板の世代が採用される前の期間がガラス基板の世代が上がるほど,長い期間となっている。このことはFX露光装置の製作リードタイムが大型基板ほど,前もって必要であったことを示唆していると思われる。

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