半導体材料を使った電子デバイスは,電子機器に多く用いられ,1990年頃に提案されたPDA(パーソナルデジタルアシスタント)に代表されるユビキタス機器は,その後スマートフォンに進化を遂げた。またIoTを可能とする様々な家電・自動車・産業用機器にも,電子デバイスが多く使われるようになった。現在ビッグデータや人工知能(AI)に対して,高速な処理が可能な電子デバイス開発が加速している。
一方フラットパネルディスプレイ(FPD)は1985年頃から市場に投入された。ポータブルTVとして小型液晶ディスプレイ(LCD)は,ラップトップPC(ノートPC)やPC用モニターに採用され更に大型のLCD-TVが急速に普及していった。今日ではLCD以外にも有機EL(OLED)TVも開発され,表示画質の改善が進んでいる。
電子デバイスやFPDの製造技術は,主にフォトリソグラフィー技術による。フォトレジスト塗布・露光・現像・エッチング・フォトレジスト除去といった一連のステップがフォトリソグラフィープロセスである。フラットパネルディスプレイ(FPD)に対するフォトリソグラフィー技術は,当初半導体製造におけるフォトリソグラフィーよりも形成するパターンが大幅に大きいため技術的ハードルが容易とみられたため,技術開発があまり注目されてこなかった。しかし,ディスプレイ製品用ガラス基板は半導体用シリコンウエハに比べて極めて大きく,このガラス基板上に,均一で低い欠陥でパターンを形成することは,半導体製造とは違った新たな技術開発が必要とされた。そのフォトリグラフィーの技術の根幹をなすプロセスが露光工程であり,そのための特化した露光装置が開発されている。
FPD用露光装置は1985年代に半導体用露光装置をベースに,ステッパータイプやミラープロジェクションタイプが開発された。これらの露光装置は主にLCDを駆動するTFT(Thin Film Transistor)のパターニングに用いられた。またカラーフィルターのパターニングにはプロキシミティタイプの露光機が使われた。
FPD露光装置の連載においては,LCDやOLEDに用いられているステッパーとミラープロジェクション及びプロキシミティタイプの露光機に対して,露光原理と装置の開発経緯並びに露光性能してスループット・タクトタイム・解像力について説明する予定である。対象とする露光装置は,米国のMRS Technology Inc.社のステッパータイプのPanel Printer,キヤノン社のミラープロジェクションアライナー,ニコン社のステッパーとマルチレンズスキャナー,及び日立ハイテクノロジーズ社・日本精工社・トプコン社・大日本科研社のプロキシミティ露光装置を取り上げる。
FPDの画面サイズの大型化やFPDパネルの生産性向上の要求から,ガラス基板は開発当初30 cm程度のサイズが現在では3 mを超える極めて大型の基板が用いられている。この結果,FPD用露光装置やフォトマスクも大型化が進められ,装置・マスクが極めて大きなコスト要因となっている。このため,これらの従来のFPD用露光装置に代わる新たな露光方式が提案・検討され,小型マスクを使ったマイクロレンズアレーや可変開口投影方が提案され,更にマスク自体を用いないマスクレス露光も提案されている。本連載では,ブイ・テクノロジー社のマイクロレンズアレー露光装置,大日本スクリーン製造社の可変開口マスクを用いた露光装置, Holtronic社のホログラムマスクを用いた露光装置,及びマスクレス露光装置としてDMD・GLV・LWL・MLDIを取り上げ,露光原理,装置の開発経緯並びに露光性能して解像力等について説明する予定である。
また連載に,露光に関連したコラムとして,光学の基礎・写真と感光剤の開発・レンズの開発・鏡の開発・フォトリソグラフィーとフォトレジストに対して,関わった人々を簡単な解説とイラストで連載する予定である。楽しんでご覧頂ければ幸甚である。
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(月刊OPTRONICS 2022年7月号)