2. 鋼板切断用レーザーによる炭素鋼の発光スペクトルの測定
発光スペクトルの測定には,レーザー発振と分光器の信号との同期がキーポイントである。図1は本測定の構成図である。1000 W,1080 nmの近赤外マルチモードファイバーレーザーにHSG Laser製の切断用レーザーヘッドを装着し,レーザーのパルス幅および発振信号をパルスコントローラで制御した。分光器側は,レーザーの発振信号からパルスジェネレータへの分光器用トリガー信号を生成し,それを分光器に送信しレーザー発振と同期したデータを取得する。㈱スタンダードテストピース社から購入した各炭素鋼サンプル(S15C,S20C,S35C,S45CおよびS55C)表面をアルコールで脱脂処理したのち,ステージに固定し,レーザーヘッドとサンプルの中央付近に分光器の入射用ファイバーケーブルを設置した。また,スペクトル測定時にレーザー照射に合わせて適量の圧縮空気をレーザーヘッドから放出することにより,アブレーションによるスパッタなどがレーザーヘッドに入らない仕組みとなっている。
炭素鋼のLIBS測定では一般に,分光器の測定は190 nm〜195 nmの範囲に存在する鉄と炭素の元素比を用いて元素濃度を定量分析している9, 11)が,本紹介では,弊社向けに分光器メーカーに提供された,波長範囲が約300 nm~600 nm仕様の小型分光器(試作機)を用いた測定結果を報告する。この波長領域を採用した背景は,数社の小型分光器で試験したが,190 nm~240 nmの波長領域の測定はレーザーのパルス幅を10マイクロ秒に設定してもノイズとの区別が難しいからである。
図2はレーザーのパルス幅を20~100マイクロ秒に設定し,分光器とトリガー信号を同期させて得られたS15C炭素鋼の発光スペクトル測定結果である。ナノ秒レーザーを用いた報告と比較して,全体のスペクトル強度はパルス幅に比例し非常に低いが,参考論文13〜16)とNISTデータベース17)を参照すると,鉄元素(Fe)が372 nm,373 nm,386 nmおよび527 nm13〜15, 17)に,クロム元素(Cr)が358 nm13, 17),マンガン元素(Mn)が403 nm16, 17)にそれぞれピークが見られた。また,波長600 nmになるにつれてスペクトル強度が増加する傾向を示したが,これは,レーザー照射時の圧縮空気中の元素の発光およびサンプル表面のレーザー加熱による発光が影響していると推測する。さらに,他の炭素鋼(S20C,S35C,S45CおよびS55C)の発光スペクトルも同様に測定できた。次に,これらのスペクトルデータとAIを用いた炭素鋼判定について紹介する。