超低電圧で発光する青色有機EL素子の開発

著者: 伊澤 誠一郎

ミニインタビュー

伊澤先生に聞く
異分野から切り拓く青色有機ELの世界

─研究を始めたきっかけを教えてください。

(伊澤)もともと私は有機太陽電池の研究を行なっていました。太陽電池の効率を上げるためには,デバイス自体を光らせる必要があるという課題があり,その解決策を考えるなかで,太陽電池に似た構造を持ちながら強く発光するデバイス構造のアイデアに至り,有機ELの研究を始めました。

研究の初期段階では,低電圧で黄色発光を実現できる有機ELの開発に取り組みました。しかし,有機ELの分野では光エネルギーが高い青色の発光が高電圧を要し,安定性にも課題があるため,青色発光の開発は最も重要で,かつ挑戦的なテーマとされています。こうした背景から,現在は青色発光デバイスの開発に研究の主軸を移しています。

─この研究の面白さを教えてください。

(伊澤)有機ELの魅力は,まず自分で作ったデバイスが美しく発光する様子を目で見て楽しめることです。私たちの研究では新しい発光原理を用いており,発光分子の組み合わせを変えることで光り方が大きく変化します。自分の発想や工夫がそのまま結果として色や輝きに現れるため,研究の成果を直感的に実感できる点が非常に面白いと感じています。

─研究してる中で苦労していることがありましたら教えてください。

(伊澤)私はもともと太陽電池の研究者で,有機ELについては知識がほとんどなく,異分野からの参入という点で測定技術や応用面の基礎知識を習得するのに苦労しました。現在は実用化を目指した研究に取り組んでおり,乗り越えるべき課題も多くありますが,本気で実用化を目指して研究できる機会は貴重であり,その過程を楽しみながら取り組んでいます。

─この研究がどのように応用されることを期待していらっしゃいますでしょうか。

(伊澤)有機ELはすでにテレビやスマートフォンなどに広く使われており,自分の発見した発光原理がそうした製品に応用されるようになれば非常に嬉しく思います。今後はVR/ARディスプレーやヘッドマウントディスプレーなどへの応用も進むと考えられ,その分野でも存在感を発揮したいと考えています。

─若手研究者が置かれている状況をどのように思っていらっしゃいますか

(伊澤)最近は,若手研究者向けの支援や研究費の制度が充実してきており,環境は以前より良くなっていると感じています。むしろ課題は,研究者を志す人が減っていることです。実際には待遇も改善されていますが,その魅力が十分に伝わっておらず,研究の道に進む人が少ない点が問題だと考えています。

─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。

(伊澤)研究は本来とても楽しいものなので,その楽しさを大切にしながら取り組んでほしいと思います。そのうえで,自分の研究の本質や求められていることを常に意識し,考えながら進めていく姿勢が重要だと感じています。

(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)

イザワ セイイチロウ
所属:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 准教授
略歴:2024年10月−現在 東京科学大学,総合研究院,フロンティア材料研究所,准教授
2023年1月−2024年9月 東京工業大学,科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所,准教授
2016年4月−2022年12月 分子科学研究所,助教
2015年10月−2016年3月 カリフォルニア大学サンタバーバラ校,訪問研究員
2015年4月−2015年9月 理化学研究所,訪問研究員
2015年4月−2016年3月 日本学術振興会特別研究員PD
2010年4月−2015年3月 東京大学大学院,工学系研究科,応用化学専攻 博士(工学)
2006年4月−2010年3月 東京大学,工学部,応用化学科
趣味:テレビで野球やサッカーのスポーツ観戦

(月刊OPTRONICS 2025年12月号)

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