金と銀 どっちが偉い?

月谷昌之介

レ・ミゼラブルが映画になって,結構なヒットとなった。ミュージカルなので多くの歌とともに物語が進むのであるが,その中にエポニールという少女が歌う“On my own” という失恋の歌がある。“In the rain the pavement shines like silver(雨に濡れて石畳が銀のように輝いているわ)”という歌詞が印象的な雨夜の美しいシーンだ。

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ところで,レ・ミゼラブルの舞台は19世紀初頭のパリである。その頃のパリの街灯はレヴェルベールと呼ばれる,オイルランプの光を半球ミラーで下側に照らすものだった。この明かりによって夜の犯罪が大幅に減ったそうだから,それなりに明るいものだったのだろう。雨夜であれば月明かりも無く,ランプの光だけが濡れた石畳に反射していたにちがいない。オイルの燃える炎の色は,白と言うよりは赤黄みがかかった色である。

映画の中では歌詞の通り,色の無い銀色に石畳が輝いていたと思うが,本当ならば銀と言うよりは赤黄味をおびた金色に近い光になるのではないか,などと,ついつい野暮なことを考えてしまうのである。「雨に濡れて石畳が黄金のように輝いているわ」などという歌詞では悲しい恋の歌は成立しないから,演出上はもちろん銀色が正解に決まっているのである。

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