1. はじめに
ネットワークインフラは現代の生活に欠かせない社会インフラであり,情報通信サービス需要は年々高まっている。さらに最近では生成AIが活用されるようになり,新技術の活用によってデータ流通量は爆発的に増加し,2040年のデータ流通量は,2020年の348倍に増えるとの予測もある1)。爆発的なデータ流通量の増加に対応可能な低消費電力,高品質,大容量,低遅延な情報通信ネットワークの実現に向けて,マルチコアファイバ(MCF:Multi-Core Fiber)などの新しい構造の光ファイバの導入や,シリコンフォトニクスを活用した超短距離での光配線などが注目されている2, 3)。
MCFは,既存の単一コアをもつシングルモードファイバ(SMF:Single-mode fiber)の伝送容量限界を打破するため,光ファイバ中に配置した複数のコアを伝送チャネルとして利用する。また,シリコンフォトニクスは,シリコン半導体の微細加工技術を用いてシリコン基板上に受発光素子や光変調器,光導波路,光スイッチといった素子を集積する技術である。シリコンフォトニクス技術を用い,1つのシリコン基板上に光と電子の回路を形成する光電融合は,超短距離の光配線実現におけるキーテクノロジーである。
MCFやマルチチャネル光導波路などを使用する場合,各種光素子との光接続においては数多くの接続点が必要となる。通常,光素子間の接続においては,軸ずれや角度ずれ,間隙によって結合損失が発生するため高精度な調芯が要求される。加えて,マルチチャネル光部品では,軸回転方向の調芯も要求されることから,低損失かつ高スループットな光接続技術を実現するにはより難易度が増す。
光素子間を簡易的に接続することができる3次元光配線技術として自己形成光導波(LISW optical waveguide:Light-induced self-written optical waveguide)が提案されている。自己形成光導波路技術は,光硬化性樹脂中に配置した光ファイバなどから光を出射させ,ビームの伝搬方向に自動的に光導波路を作製することができる。また,対向配置した光ファイバの双方向からの光照射による自己形成光導波路の形成技術は光はんだと呼ばれ,軸ずれのある光素子間も自動的に接続することができる。これにより,光ファイバと受発光素子間を自己形成光導波路によって無調芯かつ低損失で接続することができる4〜12)。
筆者らは,波長1310 nmや1550 nmといった光通信波長帯用の光デバイスに向けた近赤外自己形成光導波路を実現した。従来の光重合開始剤や,増感色素と開始剤を組み合わせた光重合開始システムには,フォトンエネルギーの低い波長1100 nm以上の近赤外光で作用するものは存在しなかった。筆者らは,波長1070〜1550 nmの光源で感光可能な二光子および一光子重合開始システムを開発し,近赤外光での自己形成光導波路の作製を実現した7〜11)。本稿では,近赤外光による一光子重合開始システムを用いた自己形成光導波路の作製と,シリコンフォトニクスデバイスおよびマルチチャネル光導波路への応用展開について紹介する。