こすると発光色が変わる有機結晶の合理的創製

ミニインタビュー

伊藤先生に聞く
こすって変わってまた戻る,不思議な蛍光色素にかける

─この研究を始めたきっかけを教えてください。

(伊藤)私はもともと発光する有機分子の研究をしていました。普通,発光性有機分子を作るとき,合成した後に純度を高める操作をしますが,その過程でなぜか違う色に光っている部分を見つけたのがきっかけです。

─この研究の面白さを教えてください。

(伊藤)発光色が様々に変わるのが見ていて面白いですね。科学的には,分子がどのように構造が変わっているか,分子と分子の間でエネルギーの移動がどう起こるかを調べていくと深いところがあります。それをどうしたら思い通りにできるか,どうすればこすって色が変わるものが作れるのかを,少しずつ明らかにできているのも面白いと思います。

─研究している中で苦労していることはありますか。

(伊藤)苦労が研究の楽しいところです(笑)。分からないことは他の共同研究の先生に測定をお願いしたりして少しずつ進めていきます。大変ではありますが,そこが楽しいところであり,研究の醍醐味でもあります。

─この研究がどのように応用されることを期待していますか。

(伊藤)基本的にはこすって色が変わる現象なので,何かぶつかる・刺激が加わる・摩擦が加わるなどを検出するセンサーがその一つです。この技術を使うと,暗号化や偽造を防止することができるので,セキュリティ用途を想定した共同研究も進めています。他にも,実際にどういうところに需要があるかを企業や産業界に問いかけています。「必ずこれ」と決まった応用があるわけではなく,色々なところに使える可能性のある材料だと考えています。

─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。

(伊藤)なかなかポジションが見つからずに大変な人達がいることは理解しています。簡単にどうにかなるものでもないので,置かれている中でベストを尽くして一番いい道を見つけるしかないと思います。一方で,アカデミックに向かわずに企業に行く人の方が増えているのが現状としてあります。そういう意味では,若手にとってアカデミックの研究者が魅力的な職業に見えるように,もう少し全体が変わってくると良いと思います。

─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。

(伊藤)周りは気にせずに,自分がやりたいことをやっていくことを第一に考えることが大事です。結果がどうなるかは,その後についてくるものかなと思っています。

(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)

イトウ スグル
所属:横浜国立大学 大学院工学研究院 准教授
略歴:2011年3月横浜国立大学大学院工学府博士課程後期短縮修了,博士(工学)。同年4月東京工業大学大学院理工学研究科産学官連携研究員,2013年10月横浜国立大学大学院工学研究院研究教員,2015年4月同助教,2017年7月より同准教授(現職)。2021年10月科学技術振興機構(JST)さきがけ自在配列領域研究者(兼任)。専門:有機合成化学,光化学,超分子化学。 趣味:3歳と0歳の娘と遊ぶこと

(月刊OPTRONICS 2024年10月号)

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