光の波長情報を検出可能なフィルタフリー波長センサの開発

2. フィルタフリー波長センサの概要

2.1 センサの原理と製作
図1 (a)フィルタフリー波長センサの断面模式図とポテンシャル分布(b)センサチップと単一画素の顕微鏡写真
図1 (a)フィルタフリー波長センサの断面模式図とポテンシャル分布(b)センサチップと単一画素の顕微鏡写真

図1(a)にフィルタフリー波長センサの断面模式を示す。p型シリコン基板上Deep n-well,p-wellが形成された二重拡散well構造にフォトゲート(PG)を配置した受光素子である。PGとDeep n-well電極に正の電圧を印加するとシリコン内部に山形のポテンシャル分布が形成される。シリコンの吸収係数により光の波長ごとに異なる侵入長を有するため,光の入射時にポテンシャルピークWより表面側で発生した光電子は光電流IFD,基板側で発生した光電子を光電流INWで分離して読み取ることができ,それらの電流比率(INW/IFD)から単一素子で波長の識別が可能となる。光の強度は各電流の和(INW+IFD)で計測する。

二重拡散well構造のフィルタフリー波長センサを製作するために,プロセスシミュレーターであるTCADを用いてCMOSプロセス条件を確立した。二重拡散well構造の不純物濃度の条件をp-well>deep n-well>p-subとする必要がある。使用するp型シリコン基板の不純物濃度は2.24×1014 cm–3であったため,deep n-wellは1015 cm–3,p-wellは1016 cm–3を目指して設計・製作を行った。フィルタフリー波長センサは豊橋技術科学大学のLSI工場で,5 μmルール,1-poly,2-MetalのCMOSプロセスより製作を行った。図1(b)に製作したセンサチップと単一画素の顕微鏡画像を示す。

2.2 センサの光特性
図2 フィルタフリー波長センサの電流比率
図2 フィルタフリー波長センサの電流比率

可視化領域の波長に対するフィルタフリー波長センサの波長依存性と光強度依存性の評価結果を図2に示す。レーザー駆動型の波長可変光源(Laser-Driven Tunable Light Source)を用いて,半値幅5〜10 nmの波長460〜800 nmをセンサに照射し,出力電流INWIFDの計測を行った。図2(a)に波長依存性の結果を示し,照射する光の波長によって電流比率は0.09から8.35まで指数関数的に変化する結果が得られた。したがって,センサの電流比率はシリコンの吸収係数による光の吸収深さに依存していることが検証され,フィルタフリー波長センサによる波長の検出が可能であることが明らかになった。次に,光強度の変化による電流比率の依存性の評価を行った。光強度依存性を評価はNDフィルターを用いて光強度を1/10に減衰させ,460〜800 nmの波長を照射して電流比率を計測し,光強度の変化における電流比率の変化は極小であることが確認された。つまり,ポテンシャルピークWを基準にして光強度が変化しても波長による光の侵入深さは一定であることを確認した。これらの結果から,フィルタフリー波長センサは光強度に依存せず,波長の識別が可能であることが示唆された。

センサの波長分解能を評価するため,波長可変光源を用いて550と650 nmの波長を0.1 nm刻みで変化しながら電流比率の計測を行った。図2(b),(c)に計測結果を示しており,照射波長が1 nmシフトすると,550 nmと650 nmで電流比0.0083と0.0167がそれぞれ変化した。計測ノイズによる電流比率の変化は小数点以下4桁未満で発生するため,センサの波長分解能は0.1 nm以上であることを確認した。

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