円偏光純度と明るさを両立させる発光式円偏光コンバータの開発

2.2 発光式円偏光コンバータ
図1 円偏光純度と明るさを両立する発光式円偏光コンバータの概念図。
図1 円偏光純度と明るさを両立する発光式円偏光コンバータの概念図。

筆者らが考案した発光式円偏光コンバータは,LPL材料とλ/4位相差材料を組み合わせることによって得られる。例えば,太陽光のような非偏光を与える外部光源を想定した場合,フォトルミネッセンスを示す透明LPLフィルムとλ/4位相差フィルムを貼り合わせることで,電源要らずのフィルム状発光式円偏光コンバータを作製することができる(図1)。このアプローチの特徴は,大きな直線偏光度のLPLを位相制御することにより,円偏光純度と明るさを両立した円偏光を生成できる点にある。様々な発光体をLPL光源として用いることができるため,発光体の選択により発光強度(明るさ)や発光スペクトル形状(色)を自由に調節できる。また,LPLフィルムの偏光軸とλ/4位相差フィルムのfast軸の角度(–45˚or +45˚)を選択することにより,光強度およびスペクトル形状を保ったまま左右の円偏光を容易にスイッチできる点も特徴である。円偏光子によるフィルター方式との明確な違いは,直線偏光子が光吸収機構を利用することに対し,LPLフィルムは発光機構を利用する点にある。そのため,発光式円偏光コンバータは波長変換機能を有しており,様々な応用に有利に働く。例えば,太陽電池の光電変換や植物の光合成における未利用光を,利用できる波長領域の円偏光に変換することが可能となる。さらに,光吸収機構(光の引き算)ではなく発光機構(光の足し算)の特徴を活かすことにより,LPLフィルムの多層化による光学情報の多重化も可能となる。

図2 左および右円偏光コンバータの模式図および写真。
図2 左および右円偏光コンバータの模式図および写真。

発光式円偏光コンバータにおいて,光強度やスペクトル形状,偏光度(正確には円偏光に変換する前の直線偏光度)を決めるのはLPL材料であり,LPL材料が性能の鍵を握っていると言っても過言ではない。LPL材料では,発光量子収率(ϕ)と直線偏光度(PLP)はそれぞれ独立して振る舞うパラメータであり,PLPは材料中の発光体がもつ遷移双極子モーメントの配向度に依存する。すなわち,発光体の遷移双極子モーメントを配列制御できれば,様々な発光体をLPL材料として利用できることを意味する。

例えば,発光性一次元ナノ構造体であるCdSe/CdSコアシェル型量子ロッド(QR)を,室温で延伸可能な透明ポリマーであるエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)フィルムに混合し,QR/EVA複合フィルムを一方向に延伸することにより,QR/EVA延伸フィルム(LPLフィルム)が得られる。得られたLPLフィルムの偏光軸に対して,λ/4位相差フィルムのfast軸が–45˚となるように貼り合わせることで,左円偏光コンバータを作製した。365 nmの紫外光下で左円偏光コンバータから生じる光を,左および右円偏光フィルターを通して観察すると,肉眼で明暗の違いとしてはっきり認識できるほど大きな円偏光度の円偏光が確認された(図2(a))。

図3 左および右円偏光コンバータの円偏光スペクトル。
図3 左および右円偏光コンバータの円偏光スペクトル。

円偏光検出セットアップを組み合わせた分光光度計を用いて,円偏光度の定量評価を行った結果,450 nmの非偏光を励起光として照射した際の610 nm付近にみられる最大発光波長λmaxにおいて,全発光のうち左円偏光成分が83%で右円偏光成分が17%含まれることがわかった(図3左)。この時の円偏光度PLH–CP=0.66は,用いたLPLフィルムの直線偏光度PLP=0.68とほぼ同程度であることから,直線偏光度がそのまま円偏光度に変換されたことがわかる。用いたLPLフィルムのPLP値に対する円偏光コンバータのPCP値をプロットした結果,両者の間に正比例の関係があることが示された。また,同じLPLフィルムとλ/4位相差フィルムを用いて,貼り合わせ角度を–45˚から+45˚に変えると,光強度,スペクトル形状,および円偏光度(PRH–CP=0.66)を維持したまま,左円偏光を右円偏光に変換することができる(図2(b)図3右)。さらに,異なる発光色を示すQRを用いて作製したLPLフィルムからも,同様の大きな円偏光度および左右円偏光のスイッチング特性が確認された。以上の結果は,発光式円偏光コンバータが左右円偏光のスイッチングや波長のチューニングが自在に制御できるシステムであることを示している。

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