2. 動作原理
ここでは,尤度算出デバイスがどういったもので,どのように動作するのかをみていく。図1に尤度算出デバイスの概略図を示す。
やや複雑ではあるのだが,図の下側がデバイスの概略図で,上側は原理のコンセプトを表している。光パケットはデバイス左下から入力され,回路をいったん通過した後で導波路を介して手前に折り返し,つづく回路へと入力される。連続した2つの回路はよく見ると似た形状をしている。これらは遅延干渉計といい,時間軸上で異なる2つの信号を重ね合わせるものである。通常,光パケットは時系列に並んだ複数の光シンボルから構成される。
そのため,これらシンボルを重ね合わせることでパケット情報を反映した1つの複素信号を生成することができる。なお,本デバイスは2つの四位相変移変調(QPSK)信号を対象としている。そのため4-bitのパケットに対して有効である。動作においてとくに重要なのは1つ目の遅延干渉計であるので,本稿では主としてこちらを説明する。
先に,提案技術はパケットをなす光シンボルを重ね合わせるものだと述べた。この様子をデバイスの構造とともに見ていこう。
まず,2シンボルのQPSK信号からなる光パケットがデバイスに入力される(#1)。直後二手に分かれ一方が導波路を迂回して合流する。元々は時間軸上に並んでいた両シンボルが合波し1つの複素信号が生成される(#2→#3)。この複素信号は両シンボルの電界ベクトルを重ねわせたものである。
したがって,複素信号から元のパケットを推測することができる。しかしながら,同じ複素座標に配置されるパケットが複数個存在するため一意に決めることはできない。
そこで,両シンボルに対して位相シフトを与える。ここで少し時間を遡り,デバイス直後に二手に分かれた場面に戻ろう。このとき,両シンボルのタイミングをずらし複素座標における第一象限に位相を回転させる(#2)。
すると,生成される複素信号の座標は最右上に位置する。このように,特定のパケットに対して,複素座標を最右上とする位相シフトを与えることが本技術の肝となる。
よく分からない説明が続いたと思うので具体例を考えてみよう。今,光パケットは11 10からなる4-bitの符号列で与えられているものとする。パケットの複素座標は図1-#4の通りであることから,第一象限にシフトさせるにはπ とπ /2の位相回転を与えればよい(#5)。
こうして,11 10という光パケットにして尤度を算出するデバイスができあがる。ここで,11 10とは異なる光パケ ットを同じデバイスに入力してみよう。例えば11 00 などである。パケットの複素座標は図1を参考に各々考えてもらうとして結論のみ述べると,複素信号の座標は図1- #6のようになる。
他にも00 11パケットおよび00 01パケットに対して同じ操作を行なったものを併せて示す。このとき,パケット11 10に似ているものほど右上に,似ていないものほど左下に配置されている点に注目してもらいたい。興味深いことに,パケット間の尤度が複素座標の配置に反映されているのである。