2. 励起錯体アップコンバージョン型有機EL (ExUC-OLED)デバイス
一般的なOLEDデバイスの発光メカニズムは先述したように,正孔・電子の再結合エネルギーにより発光分子が励起状態へ遷移することを利用している(図2(a))。多くの材料系において電荷再結合に伴う励起状態は,一重項励起状態(S1)と三重項励起状態(T1)が25%:75%の割合で発生する。その後,S1から基底状態に輻射失活する時の発光を蛍光,T1から輻射失活する時の発光をりん光と呼ぶ。すわなち,蛍光・りん光発光体に依らず,励起状態の生成には発光分子の最高被占軌道(HOMO)-最低空軌道(LUMO)ギャップに相当する電圧が必要となる。
一方で,p型半導体(ドナー分子)とn型半導体(アクセプター分子)の界面において電荷再結合し2分子で励起状態を形成する現象を,励起錯体(Exciplex)や電荷移動錯体(Charge transfer complex)と呼ぶ。 Exciplex形成はドナーHOMOとアクセプターLUMOのギャップ相当の電圧でよいため,低電圧での励起状態形成が実現できる。ExciplexはOLED分野において広く知られており,過去にはエネルギーロスプロセスと認識され抑制するためのデバイス設計や材料設計がなされてきた10)。しかし近年では,Exciplexエネルギーを有効に利用することで,低電圧駆動のりん光OLED11, 12)や熱活性化遅延蛍光OLED13)へ応用する例も報告されている。
次に,発光材料においては2つのT1が衝突することで三重項三重項アップコンバージョン(TTU)によりS1が生成する材料系が古くから報告14, 15)されている。これらの材料はT1がS1の約半分といった特徴を併せ持つため,アップコンバージョン(UC)の逆過程である一重項分裂(SF)と共にエネルギー昇圧や量子効率向上といった観点から光化学や太陽電池など幅広い分野で注目が集まっている。また,OLED分野においても,蛍光材料におけるT1の有効利用と蛍光量子収率向上を目的に多くの報告16~19)がされてきた。
我々はこれら2つの過程を積極的に組み合わせることに注目した。従来のOLEDデバイスではいずれも電荷再結合エネルギーを,発光分子の励起状態形成に利用している(図2(a))。
すわなち,多くの場合において発光波長に相当する駆動電圧を必要としていた。一方で我々は,Exciplexにより生じたエネルギーを発光分子のT1へ移動し,その後TTUによりS1へ昇圧するプロセス(図2(b))を最適化することで,超低電圧駆動OLEDの開発に成功している。これにより,S1の半分のT1に相当する再結合エネルギーのみで発光に至る事が可能となり,乾電池一本で光るExUC-OLEDを実証している(図2(c))。具体的な素子構造やOLED特性を図3に示す。
発光材料にRubreneを用い,電子輸送層としてBCPを用いた従来型のOLEDデバイスではRubreneに由来するEL発光スペクトルと3.5Vから発光開始する特性が得られた。BCPはLUMOが比較的浅いため容易にRubreneへ電子を注入可能であり,Rubrene内部での電荷再結合と励起状態形成により発光が得られている。