3. Mie共鳴による構造発色の概要
ナノ・マイクロ粒子の光学特性は現在でも多くの研究・産業で注目を集めており,その歴史は古い。1908年にG. Mieにより任意の球状粒子の光散乱特性に関する厳密解が導かれている6)。図1のように吸収の無い屈折率nの物質からなる直径D(nm)の球状粒子に光(電磁波)が入射した場合,物質内部での実効的な光の波長(λ / n)がλ / n~Dの関係を満たすとき,最低次のMie共鳴が励起される。この共鳴は,内部を周回する電場(点線矢印)により,強い磁場(灰色線矢印)が励起されるため,磁気双極子共鳴と呼ばれている。この共鳴では粒子は強い散乱を示す。このような共鳴は,内部に電場が誘起されない金属材料では励起できない。
上式の条件は誘電体材料に普遍的なものであり,全ての誘電体材料が共鳴散乱を示す。しかしながら,二酸化ケイ素やプラスチックなど低屈折率材料(n~1.5)や酸化亜鉛,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム(サファイア)の高屈折率透明材料(n~2)では共鳴スペクトルがブロードであり,可視光全域を散乱するため,発色は見られない(図2(a))。物質の屈折率が4程度になると,共鳴がより先鋭化し,特定波長のみが散乱されるため再度の高い構造発色が発現する(図2(a)実線)。
先鋭なMie共鳴を実現するためには,n =4程度の高屈折率材料のナノ構造形成が必要である。半導体のシリコン(Si)結晶は可視域で屈折率が4程度と非常に高く,500 nm以上での吸収が小さいため,Mie共鳴を実現するうえで理想的な材料である。また,資源が豊富であり,環境親和性が高いという利点があるため,安全・安心・安価な材料でもある。
図2(b)は,半結晶Siの球状粒子(粒径130 nm)の走査型電子顕微鏡像である。同じ粒子を暗視野光学顕微鏡で観察すると,非常に鮮やかな緑色の散乱を示す(図2(c))。緑色の起源は,磁気双極子共鳴であり,図1で示した関係式n×D =λ で求められる光散乱波長(約520 nm)でおおよそ説明できる。この散乱波長は粒径に依存するので,Siナノ粒子の粒径を変化させることで,発色を調整することができる。また,散乱光の観測角度依存性が非常に小さいことが計算で確かめられている。