可変メタサーフェスを利用した光位相変調素子

3. 可変複屈折素子の製作プロセス

図2 製作プロセス
図2 製作プロセス

図2に可変複屈折素子の製作プロセスを示す。厚さ0.5 mmの石英ガラス基板上に,表面マイクロマシニングと犠牲層エッチングの技術を用いて製作される。まず,基板にSi/Cr/Au/Siの4層をスパッタリング成膜する。下層のSiはのちに犠牲層として用いられる。Crは接着層である。電子ビーム描画によってグレーティングのパターンを描く(a)。レジストをマスクとして上層Siを反応性イオンエッチングで除去し(b),続けてAuと下層SiをArイオンミリングおよびRIEで除去する(c)。2回目の電子ビーム描画を行い,固定梁となる部分をレジストで覆う(d)。下層SiをXeF2ガスでエッチングすることにより,Auを懸架構造(自立膜)とする(e)。最後に,酸素プラズマによって固定梁を保護していたレジストを除去する(f)。

図3 製作された複屈折可変メタサーフェス
図3 製作された複屈折可変メタサーフェス

今回,グレーティング周期p=800 nm,スリット幅w1=500 nmの素子を製作した。図3に製作された構造体の電子顕微鏡写真(左),光学顕微鏡写真(右)を示す。

4. 複屈折可変メタサーフェスの光学特性

図4 複屈折可変メタサーフェスの光学特性(波長633 nm)
図4 複屈折可変メタサーフェスの光学特性(波長633 nm)

製作したメタサーフェスの光学特性を,顕微分光システム(テクノ・シナジー社DF-1037)を用いて評価した。波長633 nmにおけるTE,TM各偏光の透過率と,偏光間の位相差を回転検光子法によって評価した。メタサーフェスに印加する電圧を変化させながら測定を行うことで,複屈折可変性を評価した。

図4に測定された位相差,透過率を電圧の関数としてあらわしたグラフを示す。透過率は10〜15%程度で大きな変化はないが,位相差は0−200 Vでは増加,200−500 Vでは減少,500−700 Vでは再び増加するというN字型の傾向がみられた。位相差の変化の範囲はおおよそ20度〜45度であった。

図5 光学特性から考えられる変形状態
図5 光学特性から考えられる変形状態

このような位相差の変化挙動が生じた原因を図5のように考察した。0−200 Vにおいては,初期状態で駆動梁が垂れ下がっていたと考えられる。そのため電圧印加に従ってΔ1の寄与が増大し,位相差が増加したと考えられる。200〜500 Vでは,ちょうど図1に示したようにΔ1の寄与が減少し,Δ2の寄与が増加するために全体として位相差が減少していると考える。500−700 Vにおいては,駆動梁に横変形が生じ,さらに位相差が増大したと考えられる。

今回,w1が500 nmと大きかったため位相差変調範囲は20度〜45度の25度程度の範囲であったが,w1を小さく作ることで今後は180度程度の位相差可変範囲を達成できると考えている。

5. おわりに

機械的可変性を有するメタサーフェス・メタマテリアルについて,我々の複屈折可変メタサーフェスを例に紹介した。メタサーフェスの文脈からこれまでは金属系の研究が多かったが,近年は低損失という特徴から誘電体メタサーフェスに可変性を付与する研究も報告されている29)。従来のMEMS/NEMS技術との親和性が非常に高いため,今後も多様なデバイスの実現が期待される。

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