3. 干渉時空間集光顕微鏡
前節で紹介した時空間集光顕微鏡では,焦点面をカメラに結像しなければならない。しかし,焦点面で発生した蛍光が試料内部で散乱されると,全てのピクセルに拡がって背景光となる。広視野1光子励起蛍光顕微鏡の焦点面外の蛍光と散乱蛍光の両方を除去可能な手法として構造化照明法が開発されている15)。構造化照明法では,図2(a)に示すように,焦点面近傍でのみ干渉縞が発生するように,複数の励起光を空間的に重ね合わせる。蛍光分子は干渉縞のパターンで励起され,蛍光分布も縞模様となる。試料上の蛍光分布をカメラに結像するとき,弾道蛍光はカメラ上に縞を結像できるが,散乱蛍光は縞を結像できない。そのため,縞成分を抽出すると,焦点外蛍光と散乱蛍光の両方を除去できる。
干渉縞によって蛍光分子を励起する構造化照明顕微鏡は超解像顕微鏡の一つでもある3)。図2(b)に示すように,空間周波数k0の強度分布 $$I_{ex}(r)=I_{0}\{1+cos(k_{0}r)\}$$ をもった励起光によって,試料を照明すると,試料の空間周波数ksをks–k0に変換することが可能である。そのため,顕微鏡における光学伝達関数の遮断周波数kcよりも高い空間周波数成分kc+k0まで検出できる。検出後に,元の空間周波数ksに戻すことによって,空間周波数帯域幅が拡がるため,超解像を得ることが可能である。
我々は,構造化照明顕微鏡と時空間集光顕微鏡を組み合わせた干渉時空間集光顕微鏡によって,背景蛍光の除去と同時に空間分解能を向上させることに成功した12)。干渉時空間集光顕微鏡は,図3に示すように,時空間集光顕微鏡の回折格子をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)に置き換えるだけで簡単に実装できる16)。DMD上の各マイクロミラーは,ON状態とOFF状態の異なる角度に傾けることができる。この傾いたマイクロミラー群は,スペクトルを分光するためのブレーズド回折格子として作用する。
また,DMD上のON/OFFのパターンを格子模様に設定すれば,構造化照明を実現するための振幅型の回折格子としても作用する。図4(a)に示すように,3光子励起を用いた干渉時空間集光顕微鏡では,空間分解能を励起波長の1/10倍である106 nmまで向上させることに成功している17)。
その結果,図4(b)に示すように,時空間集光顕微鏡では識別できなかった隣接する100 nmの蛍光ビーズを,干渉時空間集光顕微鏡では識別できるようになった。また,干渉時空間集光顕微鏡をマウスの脳組織のイメージングに応用した結果を図4(c),(d),(e),(f)に示す。時空間集光顕微鏡の場合,3光子励起に比べて,2光子励起の方が背景光による影響が大きいが,干渉時空間集光顕微鏡では,その背景光を除去できていることがわかる。3光子励起の場合も,時空間集光顕微鏡よりも干渉時空間集光顕微鏡の方が核内の構造が鮮明に可視化されていることがわかる。