ナノ精度コピーによる超高精度ミラーの量産化

5.おわりに

図10 これまで電鋳法により作製した回転体ミラー
図10 これまで電鋳法により作製した回転体ミラー

本稿では,最先端の加工精度の現状を報告し,1 nmという原子で10個程度の精度まで表面の加工が可能であることを示した。しかし,高精度表面の生産の効率化,低コスト化には限界がある。それを解決するための,高精度の表面を量産可能な転写複製という手法として高精度電鋳法を紹介した。具体的な開発の目的として回転体ミラーの作製を目的に開発を進めた結果,作製されたミラーは,ここで示した高次高調波だけでなく放射光施設SPring-8の軟X線やX線自由電子レーザSACLAのEUV光でも使用可能であることが明らかになっている。図10は当研究室で作製した回転体ミラーであり,今,研究室内では2週間で1つのペースでミラーを作製している。今のところ,転写精度の限界は見えておらず,マスター表面と完全に同一の精度で形状を転写できる可能性があると考えている。

ここで示した,電鋳法に基づくナノ精度コピー技術は,高精度ミラー作製技術において大幅な低コスト化をもたらす。光学素子を入手しやすくすることは,様々な光学機器,光学システムの開発を容易にし,X線光学分野に大きく貢献するものと考えられる。

電鋳法に関する研究は,JST 科学技術振興機構 戦略的創造事業さきがけと先端計測分析技術・機器開発事業により行われました。ここに感謝申し上げます。

参考文献
1)三村秀和, 湯本博勝, 松山智至, 佐野泰久, 山内和人: X線ミラー用ナノ精度表面創成法の開発-形状修正加工の高分解能化とX線集光ミラーへの適応, 精密工学会誌, 76 (3), 338-342(2010).
2)三村秀和,湯本博勝,小山貴久,大橋治彦,石川哲也,山内和人,SACLAにおける1 μmコヒーレント集光装置の開発,日本放射光学会誌,Vol.25, No.2, (2012).
3)K. Yamauchi, H. Mimura, K. Inagaki, Y. Mori: Figuring with sub- nanometer-level accuracy by numerically controlled elastic emission machining, Review of Scientific Instruments, 73 (11), 4028-4033(2002).
4)K. Yamauchi, K. Yamamura, H. Mimura, Y. Sano, A. Saito, K. Ueno K. Endo, A. Souvorov, M. Yabashi, K. Tamasaku, T. Ishikawa, and Y. Mori, Microstitching interferometry for x-ray reflective optics, Review of Scientific Instruments, 74 (5), 2894-2898 (2003).
5)H. Mimura, H. Yumoto, S. Matsuyama, K. Yamamura, Y. Sano, K. Ueno, K. Endo, Y. Mori, Y. Nishino, K. Tamasaku, M. Yabashi, T. Ishikawa and K. Yamauchi: Relative angle determinable stitching interferometry for hard x-ray reflective optics, Review of Scientific Instruments, 76(4), 045102-1-6 (2005).
6)H. Mimura, S. Handa, T. Kimura, H. Yumoto, D. Yamakawa, H. Yokoyama, S. Matsuyama, K. Inagaki, K. Yamamura, Y. Sano, K. Tamasaku, Y. Nishino, M. Yabashi, T. Ishikawa & K. Yamauchi: Breaking the 10nm barrier in hard-X-ray focusing, Nature Physics, 6 (2), 122-125(2010).
7)H. Mimura, H. Yumoto, S. Matsuyama, T. Koyama, K. Tono, Y. Inubushi, T. Togashi, T. Sato, J. Kim, R. Fukui, Y. Sano, M. Yabashi, H. Ohashi, T. Ishikawa, K. Yamauchi, Generation of 1020 Wcm-2 hard X-ray laser pulses with two stage reflective focusing system, Nature communications 5 3539, doi:10.1038/ncomms4539 (2014).
8)J. Yamada, S. Matsuyama, Y. Sano, and K. Yamauchi, Development of ion beam figuring system with electrostatic deflection for ultraprecise X-ray reflective optics, Review of Scientific Instruments 86, 093103 (2015).
9)H. Mimura, H. Ishikura, S. Matsuyama, Y. Sano, K. Yamauchi, Electroforming for replicating nanometer-level smooth surface, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 11 , 2886-2889 (2011).
10)久米健大,三村秀和,電鋳法によるナノ精度形状転写プロセスの開発 -常温ニッケル電析条件の検討とマンドレルの高精度転写-,精密工学会誌,80(6), 582-586(2014).

11)H. Motoyama, T. Sato, A. Iwasaki, S. Egawa, K. Yamanouchi, and H. Mimura, Development of high-order harmonic focusing system based on ellipsoidal mirror, Review of Scientific Instruments 87, 051803(2016).

■Toward quantity production of precise mirrors by replication method
■Hidekazu Mimura

■Department of Precision Engineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, Associate Professor

ミムラ ヒデカズ

所属:東京大学 大学院工学系研究科 精密工学専攻 准教授

(月刊OPTRONICS 2017年9月号)

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