2.2 半導体薄膜による機能性発現
機能性発現のためのもう一つの手法として,半導体薄膜を用いることも有効である。特にInP系半導体は,従来の光集積回路のメインプラットフォームであることから,前述のグラフェンに比べて各機能を発現するためのノウハウが豊富に揃っている(つまり,前述の特長Aを無条件で満たす)。一方の特長Bについては,薄膜フィルム内に埋め込んだ半導体薄膜の膜厚と密接に関係している。
たとえばInP系化合物半導体では,格子緩和などを考慮した場合,1%(10000 ppm)程度の格子歪みしか許されない。これは例えば,薄膜フィルムに曲率半径100μmの湾曲(マクロな視点では非常に急峻な曲げである)がかかった場合,半導体薄膜の膜厚が200 nm程度以下であれば損傷しないことを意味する。光回路内で機能性を得るという目的においては,これは十分妥当な値であるといえる。
我々のグループではこれまで,ベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene;BCB)を用いてSi基板上にInP系半導体薄膜を形成する手法を提案し,それを用いた各種光素子の実現を行ってきた25〜27)。本構造では,InP系半導体薄膜の上下方向が低屈折率材料に埋め込まれることから,高屈折率差による強光閉じ込めが実現でき,素子の小型化及び低消費電力化が可能となる。本技術は,BCBに限らず様々なポリマーで代用できることから,有機薄膜光集積回路にもそのまま応用が可能である。
図3(b)に,実際にInP系半導体を内包した薄膜フィルムの写真を示す(白い点線で囲った領域にGaInAs薄膜が内包されている)。フィルムの形成方法は以下のとおりである。まず,有機金属気相成長によりInP基板上にGa 0.47 In 0.53 Asを250 nmを成長する。一方,支持基板(InPなど)上に,剥離用ポリイミドであるECRIOS®を塗布し,170℃のN2雰囲気で前熱処理した後,両基板を貼り付ける。
その後,後熱処理(260℃のN2雰囲気)を介して,ECRIOS®を完全に固形化させた後,ウェットエッチングを用いて薄膜GaInAs層を形成する。最後に,支持基板からのフィルム剥離を行うことで完成となる。薄膜GaInAs層の中心部の光学顕微鏡画像からも,クラックフリーな半導体薄膜をフィルム上に実現できていることが分かる(図3(c),(d)参照)。
実際の有機薄膜光集積回路においては,任意のポリマー層において任意形状の半導体薄膜が必要となることは,グラフェンの場合と同様である。これについても,剥離用ポリイミド上に任意の多層ポリマーを塗布した上で上記手法を用いればよい。また併せて,そのときに露光・エッチングプロセスによる半導体薄膜のパターニングも可能である。