5. 種々のパラメータへ
これまでの議論では,半導体における移動度μ,抵抗率ρといった量について触れてこなかった。移動度や抵抗率はそれぞれ
として与えられる。ここでこれらはDrudeモデルにおける減衰パラメータγに依存しており,それらが実はキャリア密度依存性があることに注目する。このことはキャリア密度が変われば物質固有の値であるγでさえも影響を受けることを反映させたものであり,第一次近似として線形の補正考える。実際にキャリア密度の異なるGaN結晶を用意しそれぞれに対してホール測定を行い,キャリア密度とγの関係を調べたのが図5である。図中,4つの異なるサンプルにおける測定点を十字の点で示している。一方,これらをγ=aN+bという関係で線形フィッティングしたものが実線であり,キャリア密度とγの関係が再現できていることがわかる。なおa=3.06×10–16(cm3・cm–1),b=447(cm–1)であった。また,γの他にも,ωL,Γといったパラメータも同様にキャリア密度の影響を受けることがわかっている。
γとNの関係がわかると式⑸,⑹を用いることで移動度,抵抗率をキャリア密度から見積もることができる。同じ試料についてTHz波の反射率から求めたキャリア密度,及びそれを用いて求めたμ,ρとホール測定で求めたそれぞれの値を比べたものを図6(a),(b),(c)に示す。いずれのパラメータも2つの方法で調べた両者が一致しており,THz波で測定した反射率から,キャリア密度だけでなく移動度,抵抗率も求めることができることを示している。これまでのところ,このキャリア密度とγの関係はGaAs,SiCなど他の材料についても調べており26, 27),本手法が適用可能である。
6. まとめと展望
広帯域単色波長可変THz波光源を用いた半導体ウエハーの評価装置を開発した。半導体材料の反射率のキャリア密度依存性を応用することで反射率分布からキャリア密度の面内分布を非破壊,非接触で高速に測定することができる。さらにキャリア密度と移動度,抵抗率に関係があることから反射率分布の測定からそれらの面内分布を同時に求めることができる。これまでGaN,SiC,GaAs,Siにおいて面内分布の評価に成功しており,現在必要とされるパワー半導体の高性能化に十分貢献できる基礎技術であるものと考えている。また,ここでは紹介できなかったが筆者らはTHz帯,中赤外帯のカメラなどのイメージング素子での検出も行っている。本稿で述べた測定原理を高出力THz波光源とイメージング素子の組み合わせに展開することで,より大面積な試料評価を高速に実現できる。