4. 性能と測定例
4.1 空間分解能
イメージング計測における空間分解能は石英基板上にクロムのパターンが蒸着されたテストターゲット(Edmund Optics Inc., USAF Resolution Target Positive)を用いて評価した。クロムのTHz帯での反射率が石英に比べ高いことから広帯域に空間分解能を調べるのに便利である。空間分解能は現在のところおよそ0.5 mmの分解能があると見積っている。原理的には波長程度までは絞り込めるはずであるが,DAST結晶上の赤外光のスポットサイズおよび,軸外し放物面鏡の焦点距離の比によって制限を受けていると考えている。
4.2 参照光の効果
反射率測定は表面の形状に敏感であるが,先に述べたように滑らかな表面の場合,図1におけるRの周波数領域では反射率がキャリア密度に寄らずほぼ1であることがわかっている。そこで,Rの領域での反射強度を反射率の規格化のために用いることで,金属ミラーなどにおけるリファレンス測定をすることなく反射率を求めることができる。図3では極端な例として表面が波打っているGaN試料について測定結果を示す。図3(a)は可視光における写真,図3(b),(c)はそれぞれ参照光(19.2 THz),測定光(22.8 THz)における反射強度分布,図3(d)は図3(b),(c)の反射強度から求めた反射率(R(22.8 THz)/19.2 THz)である。
これを見ると,波打った試料の表面の影響により,図3(b),(c)では陰影がついているのに対し,図3(d)ではそれらがキャンセルしてスムーズな画像が得られている。このことは,図3(b),(c),(d)において図中の実線上での各分布をそれぞれ示したグラフ図3(e),(f),(g)を見ても,波打った表面に応じて図3(e),(f)では反射強度が振動しているが図3(g)にはそのような振動は見られないことからもよくわかる。また,図3(d)の右側にある暗い影,および図3(g)の15 pixel付近にある反射率の窪みは,キャリア密度分布が反映していると解釈できる。
4.3 キャリア密度分布の測定と精度
キャリア密度測定例としてサファイア基板上に成長させた90μm厚のn型GaNウエハー(サイズ:10 mm×10 mm,写真図4(a))における結果を示す。測定試料として,面内にキャリア密度分布があるウエハーを用意した。図4(b)に24.4 THzにおける反射率分布を示す。これを見ると右下から左上方向にかけて,反射率が徐々に変化していることがわかる。図中,A,Bの点における反射スペクトルはそれぞれ,黒,灰色の点で図4(c)に示したようになっており,その違いから,キャリア密度が面内で明確に分布していることがわかる。
Aで得られたスペクトルに対して式⑷から与えられるスペクトル関数のフィッティング曲線を実線で示す。用いた数値は文献値よりωT=560 cm–1,m*=0.2 m,ε∞=5.35であり,解析により得られたフィッティングパラメータはγ=1.8×102 cm–1,Γ=3.8×101 cm–1,ωL=7.41×102 cm–1であった。この値をもとにN以外の値について式⑷のパラメータを固定し,反射率とキャリア密度の関係を得た。この逆関数は数値的に求めることが可能で,反射率からキャリア密度に変換することができる。
そのようにして求めたキャリア密度分布を図4(d)に,さらに図4(d)の実線上におけるキャリア密度の空間変化を図4(e)に示す。このグラフから本試料では,キャリア密度が2.3×1018 cm–3から3.3×1018 cm–3の範囲で1.1×1017 cm–3/mmの変化をしながら分布していることがわかる。また,この変化が画素ごとに十分に見分けられていることから少なくとも5.5×1016 cm–3の変化が感知できていると言える。これは平均的な本試料のキャリア密度2.2×1018 cm–3と比べるとおよそ2.5%の相対確度を有することがわかる。