4. おわりに
本稿では,理化学研究所で開発を進めているカルコゲン化合物を用いた中赤外波長可変レーザーについて述べた。Cr:ZnSeレーザーの開発では,波長選択素子としてAOTFを共振器内に搭載することで,電気的にレーザーの波長が変えられる電子波長制御化を行った。これにより2.1〜2.7μmの波長領域で高速に波長選択が可能な電子波長制御Cr:ZnSeレーザーの開発に成功している。ナノ秒動作のCr:ZnSeレーザー発振器としては,世界最高クラスのパルスエネルギーが得られている。
Cr:CdSeレーザーの開発では,2.55〜3.06μmの中赤外領域で波長選択が可能な高エネルギー全固体レーザーの実現に世界に先駆けて成功した。さらなる波長可変域の拡張や高エネルギー化に向けて,共振器ミラーの反射率の最適化や光増幅器等の研究要素が残されているものの,3μm帯におけるナノ秒パルス動作の波長可変レーザーとしては世界最高クラスのパルスエネルギーが既に得られている。
今後はCr:ZnSeレーザーやCr:CdSeレーザーの高エネルギー化,超短パルス動作化などの高機能化に取り組むと同時に,Fe2+を添加したカルコゲン材料を用いた光源の開発も推進する予定である。
謝辞
本稿で紹介した研究は,理化学研究所 光量子制御技術開発チームの和田智之チームリーダー,斎藤徳人上級研究員のご協力のもとで行った研究です。この場を借りて深く感謝申し上げます。また文部科学省の科学技術戦略推進費による「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」の一環として実施されました。