表面プラズモン共鳴励起を利用したセンサー・デバイス応用

2.1 実験方法

デバイスの作製には,まずグレーティング基板(格子間隔:740 nm)のグレーティング形状をUV硬化型樹脂で転写した基板を用い,基板上にAu/Cr(50 nm/3 nm)を真空蒸着法で堆積を行った。導電性高分子薄膜は,ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を用いた。

光源には白色光を用いて観測を行った。光源から出射した光は,光ファイバーを通してレンズに入射し,レンズで指向性を上げた。レンズから出た光は偏光板を通し,電解セルに固定されたグレーティング基板に入射した。電解セルは回転台に取り付け角度の制御を行い,試料からの透過光を光ファイバーを通して分光器で検出した。

また,表面プラズモンはp偏光でのみが励起し,s偏光では励起しない。このため,s偏光の透過光強度をベースラインとして,p偏光の透過光強度からs偏光の透過光強度を引いた値(p-s)を測定結果に用いた。また,ポテンショスタットを用いて段階的に一定の電位を印加することで導電性高分子のドーピング・脱ドーピングを行った。電解質溶液には溶媒アセトニトリルにTBAPF6を0.1 Mを使用した。また作用電極には金薄膜/グレーティング基板,参照電極にはAg/Ag+,対電極にはPtを使用した。

2.2 実験結果と考察
図2 入射光角度0°と25°におけるPEDOT薄膜のドーピング-脱ドーピングによる表面プラズモン共鳴透過光波長制御
図2 入射光角度0°と25°におけるPEDOT薄膜のドーピング-脱ドーピングによる表面プラズモン共鳴透過光波長制御

図2に,一定電位におけるPEDOT薄膜のドーピング−脱ドーピングに伴う波長制御の結果を示す。入射光角度0°においてはドーピング−脱ドーピングに伴いT-SPRピークが580 nm近傍から700 nm近傍への可逆的な大きなピークシフトを観測した。また入射光角度25°においては,ドーピング−脱ドーピングに伴いT-SPRピークが680 nm近傍から750 nmの小さく鋭いピークと830 nmにおける大きなピークが観測された。これらの結果により,表面プラズモンの特性である異なる入射角度における異なるピーク波長を能動的に制御できることがわかった。

図3 グレーティング基板/金薄膜(50 nm)/PEDOT薄膜(30 nm,ドープ状態,脱ドープ状態)の入射角度0°,25°での波長590 nm,825 nmでのp偏光入射の場合のFDTD電界シミュレーション
図3 グレーティング基板/金薄膜(50 nm)/PEDOT薄膜(30 nm,ドープ状態,脱ドープ状態)の入射角度0°,25°での波長590 nm,825 nmでのp偏光入射の場合のFDTD電界シミュレーション

また,電位制御によって可逆的にT-SPRの波長制御が行えるということがわかった。これは,表面プラズモンの共鳴励起条件である入射角度を変えることにより,その共鳴励起波長が変化すること,電気化学的なドーピング−脱ドーピングによって導電性高分子の誘電率が変化することによるものである。図3にそれぞれの場合における,表面プラズモン共鳴励起電界のFDTDシミュレーション結果を示す。図のように,入射角度0°,25°ともに図2のプラズモン励起輻射光によるそれぞれのドーピング状態での励起波長において金薄膜表面の電界が増強されていることが分かる。

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