■波長変換による微弱テラヘルツ波検出
理化学研究所(理研)の南出泰亜氏は,波長変換によるテラヘルツ波検出を研究している。テラヘルツ波を光の波長に変換して検出することで,熟成した光検出技術を用いることができる。
具体的には,テラヘルツ波を非線形光学結晶(ニオブ酸リチウム)に励起光と入れると結晶内で波長変換が起き,近赤外光となって出てくるので,その変換信号を高感度光検出器で検出する。この波長変換では非同軸位相整合により,入ったテラヘルツ波の周波数に応じて出射する光の角度が異なってくる。つまり,基本的な性能として分光機能を備えることにもなる。
基本的な性能を調べたところ,感度は常温の検出器をはるかに超え,4 K冷却のボロメータでも検出できないような最少感度,~80 aJ/pulse/800 nWを記録した。一つの検出器でここまで大きなダイナミックレンジを持つものはそう無いという。
さらに,後述する東京工業大学教授の浅田雅洋氏の開発した共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いて実験したところ,周波数1.14 THzのとき最低検出可能パワー5 nWの高感度検出に成功した。
南出氏は検出器をさらに小型化するため,人工的に位相整合条件をデザインした疑似位相整合による変換素子を作製した。これによりテラヘルツ波から光への波長変換効率を向上することができる。
この素子を用いて実証実験を行なったところ,最小検出エネルギーが約100 aJと,従来の極低温動作のボロメータを上回る検出感度を達成した。
さらに,光ファイバーによって励起光を変換素子に照射し,発生した信号光をフォトディテクタに導くデバイスも製作した。その大きさは30 cm×45 cmとなっている。
高感度検出が可能なためセンシングはもちろん,ファイバー接続によりロボットアームへの取り付けや,狭所でのセンシングも可能となる。課題としては広帯域化や光ファイバーへの接続技術があるとしている。