高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所の研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて、固体にX線レーザーを照射し、テラヘルツ波が放射される現象の観測に成功した(ニュースリリース)。異なる周波数のX線から、その差に相当する周波数の光を生む「差周波発生」によるもので、X線からテラヘルツ波への約1億分の1の周波数変換を実証した。
差周波発生は、周波数の異なる二つの光から、その周波数の差に相当する新しい光が生じる現象である。可視光や近赤外光の領域では、波長変換やイメージングなどに広く利用されてきた。X線でも同様の現象を捉えられれば、光の電場の強さに比例しない応答が物質に生じる非線形光学効果を調べる新しい測定方法を開拓できると考えられている。しかし、X線で差周波発生を観測するには、入射光と発生光の位相の関係を適切に保つ「位相整合」の条件を満たす必要がある。この条件を満たすことは難しく、約10年前から研究が進められてきたものの、観測には至っていなかった。
研究グループは、この課題に対し、X線自由電子レーザー施設「SACLA」のXFELが生み出す極めて短いX線パルスと、対象物質である半導体のテルル化亜鉛(ZnTe)を組み合わせた。短いパルスには幅広い周波数のX線が含まれるため、パルス内の異なる周波数のX線同士で差周波数発生が起こり、テラヘルツ波が発生すると考えた。
まず、大型放射光施設「SPring-8」でZnTeの屈折率や吸収の特性を調べ、X線励起からテラヘルツ波への変換に適した条件が満たされることを確認した。そのうえでSACLAのXFELパルスをZnTeの単結晶に照射したところ、固体からテラヘルツ波の放射を観測した。
実験に用いたXFELの光子エネルギーは10 keV、パルス幅は10 fsだった。1 fs秒は1000兆分の1秒に相当する。研究グループは、照射するX線の強さや結晶の向きによってテラヘルツ波の放射強度がどう変化するかなどを調べ、差周波発生による現象であることを確かめた。
さらに、放射には結晶の対称性に依存する成分と、依存しない成分があることを発見した。後者が最大放射強度の70%以上を占め、従来の可視光や近赤外光とは異なる非線形光学応答がX線領域で生じることも明らかにした。
今後は、放射されるテラヘルツ波から、X線照射によって物質内部に生じる超高速な分極変化を読み取る新しい計測手法の開発を目指す。将来的には、X線のエネルギーを調整し、特定の元素や電子状態を選択的に調べる方法へ発展させることで、半導体や磁性体、トポロジカル物質性質などの物性解明への応用が期待される。

図 1 (a) 和周波、(b) 差周波過程の模式図。

図 2 XFEL照射によるテラヘルツ波放射過程の模式図。

図 3 (a) 実験配置、(b) 検出したテラヘルツ波波形、(c) 角度依存性。丸印は実験データ。実線は、X線の差周波過程によるテラヘルツ波放射モデルによるフィッティング結果。





