防衛・安全保障分野において、フォトニクス技術には何が求められているのか。防衛装備庁が公表した2026年度「安全保障技術研究推進制度」の新規採択課題から、その一端が見えてくる。
今回、560件の応募から47件が採択された。その中には、赤外線センシング、量子ネットワーク、テラヘルツ、光周波数コム、光電融合など、光技術に関わる研究が含まれている。
採択課題を横断して見ると、いくつかの共通点が浮かび上がる。光を使って対象を高精度に捉えるだけでなく、得られた情報をその場で処理すること。光と電子回路を組み合わせ、より高度な情報処理や通信を実現すること。そして、小型化や集積化を進め、さまざまな環境で利用できる技術へと発展させることである。
防衛用途に特化した技術だけではなく、産業界で研究開発が進むフォトニクス技術と重なる領域が多いことも特徴といえる。
「見る」から「情報を判断する」センシングへ
防衛分野において、赤外線は重要なセンシング技術の一つである。可視光に依存せず、対象物から放射される赤外線などを捉えられるため、夜間監視や物体検出などに利用されている。

しかし、センサーの高感度化や高解像度化だけで、必要な情報を十分に得られるとは限らない。複雑な背景の中から対象物を識別し、状況を把握するには、複数の波長情報を組み合わせ、その意味を読み解く技術が重要になる。
今回、北海道大学が採択された「赤外線マルチスペクトルと可視光イメージの統合制御センシング」は、こうした方向性を示す研究の一つである。赤外線の多波長情報と可視光画像をAIで統合し、取得する情報とその表現を画素単位で最適化することを目指している。
特徴は、光を検出する材料や画素から、読み出し回路、エッジ処理までを一体的に研究する点にある。これは、センサーの性能を個別に高めるだけでなく、情報取得から処理までを一つのシステムとして最適化しようとする取り組みである。
こうした研究は、防衛用途に限らず、自動運転、産業検査、ロボットなどでも共通する技術課題を扱っている。光をどれだけ正確に捉えるかに加え、必要な情報をいかに効率よく取り出すか。 センシング技術の研究開発は、その両面で進んでいる。
光と電波、量子をつなぐ技術
もう一つ注目したいのが、異なる技術領域を光によって結び付ける研究である。

横浜国立大学の「量子コンピュータと量子センサを量子通信で繋ぐ量子ネットワーク」では、量子変換器と量子メモリを集積し、量子情報を変換・記憶・接続する量子ノードの実現を目指す。
量子コンピュータや量子センサがそれぞれ高い性能を持っていても、相互に情報をやり取りできなければ、利用範囲は限られる。そのため、異なる量子システムを接続するための変換技術や通信技術が重要になる。
また、理化学研究所の「テラヘルツ光電波境界領域における超精密時空間同期の基礎研究」では、テラヘルツ波から光波への量子変換を発展させ、チップ集積化するとともに、CMOSデバイスとの高精度な周波数・位相同期を目指す。
テラヘルツ波は、電波と光の中間に位置する周波数領域であり、通信や計測などへの応用が期待されている。一方、その利用には、信号の発生や検出、光・電子デバイスとの接続など、克服すべき技術課題も多い。
今回の研究は、光と電波、量子と電子回路といった異なる技術領域の接点に取り組むものである。こうした技術をつなぐための基盤研究は、将来の高度な通信・計測システムを支える要素になると考えられる。
光電融合と光コムが広げる応用領域
光を情報処理や計測に利用する研究も目立つ。

量子科学技術研究開発機構が取り組むのは、次世代光電融合に向けた超高速不揮発性光電変換メモリである。光による高速な制御と、情報を保持するメモリ機能を組み合わせる研究で、光と電子回路の高度な集積化につながる技術として注目される。
光電融合は、データセンターやAI向け情報処理基盤など、民生分野でも研究開発が活発な領域である。今回の採択は、そうした技術が安全保障に関連する基礎研究としても取り上げられていることを示している。
一方、日本大学は、光周波数コムとAIを組み合わせた非破壊検査技術を研究する。光コムを基準として生成した高精度な電磁波を利用し、建物や橋梁、航空機、車両などの内部を三次元で可視化することを目指している。
光コムは、極めて高い精度で周波数を扱えることから、精密計測を支える技術として発展してきた。その応用は時間・周波数計測にとどまらず、距離計測や分光、非破壊検査などへ広がっている。
今回の研究では、光コム由来の高精度な電磁波とAIを組み合わせ、構造物内部の空隙や水分、腐食などを推定する。光による精密な計測技術を、対象物の内部状態の把握へと発展させる試みといえる。
実際に使える光技術を支える材料と集積化
一方、システムの高度化だけでなく、それを支える材料や製造技術にも目を向けたい。

東北大学では、赤外線を透過するハロゲン化物結晶について、レンズや光学窓に近い形状で直接結晶を育成する技術の研究が採択された。従来の削り出し加工では材料の3~5割が失われるとされており、新たな結晶育成法によって材料利用効率の向上と低コスト化を目指す。
赤外光学系では、材料の透過特性や加工性、製造コストが実用上の重要な要素となる。高性能なセンサーが開発されても、それを構成する光学部品の製造が難しければ、幅広い利用には結び付きにくい。
また、慶應義塾大学では、災害現場から宇宙までの過酷な環境を想定した光チップレット技術の研究が採択されている。無機ナノ光細線を使った光接続技術を開発し、耐環境性を備えたマイクロ光コムの実現を目指す。
光技術を実際のシステムへ組み込むには、性能だけでなく、小型化、接続性、耐久性、製造のしやすさなどが求められる。今回の採択課題には、そうした技術的な課題を基礎研究の段階から解決しようとする取り組みも見られる。
防衛と民生の境界で発展するフォトニクス
今回の採択結果をフォトニクスの視点から読み解くと、三つの方向性が浮かび上がる。
第一に、光による情報取得とAIによる情報処理の一体化である。第二に、光、電波、電子回路、量子技術を結び付けるための基盤技術である。そして第三に、光技術を小型で信頼性の高いシステムとして利用するための材料・製造・集積化技術である。
これらは、防衛分野だけに特有の技術ではない。自動車、通信、半導体、産業計測、ロボット、宇宙など、多くの民生分野でも研究開発が進む領域である。
安全保障技術研究推進制度は、将来の防衛分野への応用も期待される基礎研究を支援する制度であり、採択された研究成果が直ちに防衛装備へ採用されるわけではない。また、今回の採択結果だけで、防衛分野全体の研究開発方針を判断することもできない。
それでも、採択課題の中にこれだけ幅広いフォトニクス関連技術が含まれていることは注目に値する。
防衛分野で求められる技術の高度化と、民生分野で進むフォトニクスの研究開発は、多くの部分で共通している。「見る・測る」技術から、情報を「処理する・つなぐ」、そして「実際の環境で使う」技術へ。 今回の採択課題は、フォトニクスの役割が広がっていることを改めて示すものといえそうだ。
(編集部 林 諭子)
資料: 防衛装備庁「令和8年度 安全保障技術研究推進制度 応募・採択の概要/新規採択研究課題について」
https://www.mod.go.jp/atla/funding/kadai/r08kadai_1020.pdf





