工繊大ら,カーボン量子ドットで細胞内部温度を測定

京都工芸繊維大学,大阪大学,東京大学,広島大学は,ナノサイズのカーボン量子ドット(CQD)を用いて,細胞内部の温度を高精度に測定する技術を開発した(ニュースリリース)。

細胞内の温度は生命現象に深く関わっており,これまでに様々な温度計が開発されてきた。一方で、これらの温度計にはそれぞれ一長一短があり、その用途や環境で利用する温度計が限られていた。

そこで研究では,①合成が容易,②細胞への毒性が低い,③膜透過性が高く細胞導入が容易,④蛍光波長の調整が可能で,蛍光強度・蛍光寿命・比率など温度計測モードの調整も可能であり研究への導入が容易,⑤異なる測定モードで相互検証することにより信頼性の高い温度計測が可能,のすべてを満たす細胞温度計の開発を行なった。

CQDは従来型の量子ドットと同様に量子サイズ効果に由来する蛍光を発する性質がある。一方で,CQDの構成成分は主に炭素であり,従来型量子ドット(QD)のように重金属を含まないため,細胞に対する毒性が低く,バイオセンサとしての利用が期待されている。

しかし,CQDの蛍光特性・温度応答性を精密に制御することが難しく,これまでに生化学反応に伴う温度変化の計測には成功していなかった。

研究では,構造の異なるアントラキノン誘導体とシステインから簡便な水熱法によって,発光波長の異なる3つのCQDを合成した。これらのCQDの温度特性を評価したところ,CQD-1は蛍光強度増強型,CQD-3とCQD-2はそれぞれ波長が異なる強度減少型として機能した。更にCQD-1は比率型,CQD-2は寿命型の温度計としても機能することが明らかとなった。

この中で,CQD-2が示す蛍光寿命測定による温度計測は,細胞内の環境(塩・pH・タンパク質など)を受けにくく,1℃程度の温度変化を計測する高精度な測定が可能であることを示した。またこれらのCQDは細胞膜を透過し,容易に細胞内に移行すること,細胞に対する毒性が低いことを明らかにした。

CQD-2を用いて細胞の温度計測を行なった。実験では,まずCQD-2を取り込んだ細胞の培地の温度を変化させることによって,細胞内であってもCQD-2が温度計として機能することを示した。実際に,ミトコンドリアの膜電位を脱分極させることによって引き起こされる細胞内の温度上昇を計測することに成功した。

さらに,蛍光強度と蛍光寿命の異なる手法で相互検証することによる,信頼性の高い細胞温度計測法を確立した。研究グループは,これにより細胞内部の微小な温度変化を計測することが可能になり,細胞活動と温度の関係をより正確に分析できるようになったとしている。

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