産業技術総合研究所(産総研),立命館大学,会津大学は,月探査衛星「かぐや」で取得されたハイパースペクトルデータを使ったデータマイニング解析を行ない,月面のチタン鉄鉱の濃集地域の特定に成功した(ニュースリリース)。
近年,月面で調達可能な資源の確保の重要性が高まっている。月面の玄武岩にはチタン鉄鉱が含まれており,その詳しい調査は,月の内部組成や進化の理解に繋がるとされる。また,チタン鉄鉱を活用することで水や酸素,鉄,チタンが得られることが知られており,月面基地建設などの有人活動に欠かせない重要資源になると考えられている。
したがって,月面のチタン鉄鉱の分布を明らかにすることは,月の科学と資源探査の両方の観点から重要とされる。一方で,チタン鉄鉱は光の反射率が低く,リモートセンシングで得られる反射スペクトルも微弱で,その検知や判別は困難とされている。そのため,資源採掘の戦略となる基礎的な情報が十分に整備されていない状況だったという。
この研究では,チタン鉄鉱の近赤外線反射スペクトルのピークに着目し,「かぐや」で取得された約7000万に及ぶ大量のハイパースペクトルデータの中から,スペクトルのピークを持つものだけを抽出するデータマイニングを実施し,スペクトルのピークを示す51地点を特定。
さらに,チタン鉄鉱の濃集地域に対して,「かぐや」搭載の地形カメラによる高空間分解能の画像およびマルチバンドカメラ画像を使った融合解析を行ない,チタン鉄鉱の岩体や周辺の地質について詳細に調べたという。
その結果,チタン鉄鉱に富む物質は,玄武岩が分布する領域よりも少し盛り上がった月の高地と呼ばれる領域に堆積した火砕堆積物中や,天体の衝突で作られたヴィテロ・クレーターのすぐ外側に濃集していることが判明。また火砕堆積物の周囲には火山性ガラスも多く分布していたという。
月は科学の対象だけでなく,産業利用や資源探査に向けた人間活動の対象になっている。月面での有人活動に関わる技術開発に国内外のさまざまな民間企業が取り組みを始めている中で,研究の成果はこれらの活動のベースとなる資源鉱物に係る月の地質情報を提供するもの。
研究グループは,今後,チタン鉄鉱濃集地域の高解像度の画像データや熱赤外データを含む多様な地質データを使った融合解析を行ない,チタン鉄鉱の化学組成,純度(濃度),火砕堆積物の粒度など詳細な層序と組成分布に関する情報を明らかにする予定。これにより,具体的な採掘候補地点の絞り込みに必要な月資源に係る知的基盤整備を目指すとしている。