神戸大学,京都工芸繊維大学,高度技術支援センター,産業技術総合研究所は,レーザーを用いずに発光ダイオード(LED)からの光や自然光による照明,あるいは物体自体が発する光など可干渉性の低い光に対して,単一のカメラを用いて高速に動く物体の3次元形状や透明物体のイメージングができる技術の実証に世界で初めて成功し,さらに最高で毎秒100万コマの3次元イメージングを達成した(ニュースリリース)。
光は強度(明るさ)と位相(進行方向の情報)を持つが,人の目や一般的なカメラでは強度しか記録できない。ホログラフィーは光の干渉を利用して位相を記録できる技術だが,通常は可干渉性の高いレーザー光を必要とするため,LEDや太陽光などでは利用が難しいという課題があった。
一方,物体光に対して,その強度ならびに伝播方向の強度変化と位相との関係を表す強度輸送方程式を用いると,異なる奥行き位置で取得した強度画像から位相を推定できる。この技術では可干渉性の低い光源でも利用可能だが,複数の画像を順次記録する必要があるため,動く物体には適用できなかった。
そこで,研究グループは,並列強度輸送方程式を考案し,1台のカメラでワンショットで強度と位相を同時に記録できる技術を開発した。この技術を用いると,カメラの撮影速度に応じて,高速で動く物体の強度と位相の動画を記録できる。
特に,高速度カメラと組み合わせることで,可干渉性の低い光源を用いた場合でも,高速に動く物体の強度と位相の高速度動画の記録が可能になった。
開発した光学系では,LED光で動く物体を照明し,その光をハーフミラーで2つに分割して偏光板を通過させ,直交する偏光状態に変換する。それぞれの偏光光はミラーで反射され,再びハーフミラーを通して合成され,偏光高速度カメラで記録される。
このカメラは2つの偏光成分を1枚の画像として同時に記録できるため,異なる奥行き位置にある物体の強度画像をワンショットで取得できる。記録した画像に計算処理を施すことで,物体の強度画像と位相画像を復元し,それらを基に3次元イメージングが可能になる。さらに,この技術により定量的な位相計測も実現した。
この光学系を用いた実験では,空気中の電極間に高電圧をかけて発生する放電を毎秒52万5千コマで記録した。さらに,毎秒100万コマでの記録では,放電が発生した瞬間に背後の光が遮断される様子を観察した。
研究グループは,ガス噴流,爆発,工業製品の検査技術などの高度化,核融合炉におけるプラズマ診断,生きた細胞などの3次元挙動の解析や理解などに期待ができるとしている。