東京大学と新日本電工は,第6世代移動通信システム(6G)等で利用が期待される0.1~1THzのテラヘルツ波を吸収する超薄型テラヘルツ波吸収フィルムを開発した(ニュースリリース)。
現在,0.1~0.45THzのテラヘルツ波は6Gで期待されているほか,非接触バイタルモニタリングシステム,断層イメージングによる品質検査スキャニングシステム,危険物検知センシング技術の開発が進められている。さらに,テラヘルツ波(~0.95THz)を利用した天体望遠鏡は,銀河や宇宙の観測にも貢献している。
このようなテラヘルツ波の用途では,情報セキュリティの確保,電磁波干渉の回避,通信精度やセンシング感度の向上などのために,不要な電磁波ノイズの吸収が重要。しかしながら,0.3THz(300GHz)以上のテラヘルツ波吸収フィルムはこれまでに実用化されていない。
研究グループは,導電性のラムダ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)の表面を絶縁性酸化チタン(TiO2)ナノ粒子で被覆した表面コート型λ-Ti3O5を合成し,0.1~1THzのテラヘルツ波領域における新しい高性能テラヘルツ波吸収材料を開発した。
測定の結果,開発した表面コート型λ-Ti3O5は,0.1THzから1THzの範囲で0.76という高い誘電正接を示した。これは,λ-Ti3O5結晶内部のドメイン界面,絶縁性TiO2ナノ粒子とλ-Ti3O5結晶の間の界面で生じる電子散乱によって,極めて高い誘電損失がテラヘルツ波帯域で発現したことによるという。
この材料を用いて理論的計算をもとに,超薄型テラヘルツ波吸収フィルムを開発した。厚さ48µmのフィルムは0.77THzで−28dBの反射損失(99.8%吸収に相当)を示した。このような0.1~1THzの帯域のテラヘルツ波吸収フィルムはこれまで報告されておらず,世界最薄だとする。
表面コート型λ-Ti3O5を用いたテラヘルツ波吸収フィルムは世界最薄であるだけでなく,耐熱性,耐光性,耐水性,耐有機溶剤性も備え,屋外環境や過酷な条件下でも使用することが可能。λ-Ti3O5の量産コストは,吸収フィルム1m2あたり数百円程度に抑えられ,量産も可能。また,表面コート型λ-Ti3O5はチタン原子と酸素原子からなる環境に優しい材料であり,SDGsの観点にも合致する。
研究グループは,開発した表面コート型λ-Ti3O5からなる薄型テラヘルツ波フィルムはほかにも,バイタルモニタリングやセキュリティセンシング,電波望遠鏡,輸送車両の車体やインフラなどへの設置を通して,テラヘルツ技術の発展に貢献することが期待されるとしている。