東京大学,岡山大学,神戸大学は,可視光エネルギーを利用して,常温で環状アルカンから最大限の触媒の開発に成功した(ニュースリリース)。
地球沸騰化に歯止めをかけるために,化石燃料を燃やしてエネルギーを得る現状のエネルギー生産システムから,水素エネルギーを活用する循環型水素社会への転換が望まれているが,そのためには水素を安全・安価に貯蔵・運搬する技術が必要となる。
水素を貯蔵・運搬するために広く用いられている方法は高圧・低温にして液化するというものだが,これは決して効率のいものではなく,液体の安価で安定な有機分子を水素貯蔵体として利用する方法が注目れされている。
例えば,メチルシクロヘキサン(MCH)と呼ぶ環状アルカンの分子式はC7H15で,3分子の水素(H2)が6個の炭素原子に結合して貯蔵されているとみなすことができる。MCHは常温で液体で,ガスステーションやガソリンスタンドなどに貯蔵でき,トラックやタンカーで運搬もできる。MCHから水素を取り出した後に生じるトルエンも液体で,これに水素を付加させれば,水素貯蔵体であるMCHに戻る。
しかし,アルカンのC-H結合を切ることや,ここで出てくるHを水素として取り出すことは難く,今まで開発された方法は,取り出せるエネルギーよりも用いるエネルギーの方が多くなりうるような状況だった。
研究グループは,複数の触媒をシステムとして組み上げて,可視光エネルギーを使ってラジカルを発生させ,これを用いて有機分子のC-H結合を切って有用な官能基に変える反応を開発してきた。今回,このアプローチを発展させて,可視光(青色)のエネルギーを用いて,常温で環状アルカンから3分子の水素を取り出す触媒システムを開発した。
研究では,光触媒(赤色),TBACl触媒(緑色),TPA触媒(黄色),コバルト触媒(青色)の四種類の触媒をシステム化することが成功の鍵となった。特に,TBACl触媒とTPA触媒の組み合わせが特徴的で,光触媒がTBACl触媒から塩素ラジカルを発生してこれが1回目の水素取り出しを,TPA触媒から硫黄ラジカルが発生してこれが2回目と3回目の水素取り出しを,それぞれ役割分担しながら推進する。
反応を細い透明なチューブの中をフローさせながら行なうと,フラスコでは24時間の反応時間で58%収率にて進行していた反応が,80分で42%収率にて進行することも分かった。
研究グループは,この成果で得られた精密な触媒システムの設計概念は,より効率の高い新たな分子技術の革新に向けた第一歩となるとしている。