名古屋大学,産業技術総合研究所,中部大学は,ホタルの生物発光で使われる発光物質ルシフェリンの実用的なワンポット合成に成功した(ニュースリリース)。
ホタルの生物発光は,身近にみられる幻想的な生命現象としてよく知られているが,その光は発光物質D-ホタルルシフェリンと酵素ルシフェラーゼによる酸化反応によって発生するもので,ルシフェリンールシフェラーゼ反応(L-L反応)と呼ばれている。
この発光反応には酸素とマグネシウムイオン,アデノシン三リン酸(ATP)が必要であるため,それを利用したATPの高感度測定が開発されている。これは病原菌などの簡便・迅速な検出法(ATPふき取り検査)として,食品工場や医療現場での衛生検査に用いられるなど,公衆衛生上重要な役割を担っている。
また,組換え遺伝子の発現をモニターするレポーターアッセイや,ライブイメージングにも使われるなど,生命科学分野の実験で欠かすことのできない技術としても知られている。
この反応で使われているルシフェラーゼタンパク質は,遺伝子組換え大腸菌を使った大量生産法が確立されている。その一方で,ホタルが体内でどのようにしてルシフェリンを合成しているか(生合成)は,ルシフェリンの構造決定以来,多くの研究がなされてきたにも関わらず,ほとんど未解明となっている。
研究グループは2016年に,このホタルルシフェリンの生合成の研究過程で,その原料として知られているL-システインとベンゾキノンを中性緩衝液中で撹拌すると,わずか(収率約0.3%)ながらL-ルシフェリンが生成することを偶然発見し,報告した。
研究グループでは,この低収率の原因はフラスコの中で反応が無秩序に進行したためだと考え,まずこの反応を詳しく解析し経路・機構を推定した。そして,この推定経路に沿って反応が進行する最適なタイミングと反応条件を整えることで,L-システインのメチルエステル体を原料としたD-ホタルルシフェリンの実用的なワンポット合成法の開発に成功した。
この方法では,L-システインのメチルエステルのメタノール溶液に試薬を加え室温で撹拌,濃縮するという操作を繰り返すだけで,収率46%で高純度のD-ホタルルシフェリンが得られる。これにより合成プロセスの簡略化・効率化に成功し,約2日間でルシフェリンの合成が可能になった。
研究グループは,この合成法によりルシフェリンの合成コストが削減されるため,ホタル発光系を使った分析法のより広範な利用が期待されるとしている。