東京大学,気象庁気象研究所,東京海洋大学は,EarthCARE衛星が観測する雲と塵のデータに基づいて地球のエネルギー収支を算定するための手法の開発と検証を行なった(ニュースリリース)。
地球の気候は太陽から降り注ぐ光エネルギーと地球自身が宇宙空間へ放出する赤外線エネルギーとのバランスによって成り立っており,雲とエアロゾルはこれらの放射エネルギーの大気中での伝達に深く関わることで地球の気候に大きく影響している。
しかしながら,その定量的評価には大きな不確実性が伴っており,気候状態を決めている地球のエネルギー収支を正確に把握する上で大きな障害となっている。
今回の研究では,雲とエアロゾルの動態やその放射エネルギーへの影響を地球全体の規模で観測する日欧共同ミッションである地球観測衛星,EarthCARE衛星に搭載された4つのセンサ全てを組み合わせて用いることで,雲とエアロゾルの鉛直分布がもたらす放射エネルギー収支への影響を算定するための手法の開発と検証を行なった。
この開発はEarthCARE衛星打上げ前から準備として進められてきたものであるため,雲とエアロゾルに関してEarthCARE衛星と類似の観測情報を提供する米国航空宇宙局(NASA)のA-Train衛星群のデータを用いて実施された。
具体的には,雲プロファイリングレーダ・大気ライダ・多波長イメージャの3つのセンサから得られる雲とエアロゾルの鉛直分布の情報と気温・気圧・湿度などの気象条件に基づいて放射エネルギーの大気中での伝達過程を計算し,その計算から得られる大気上端での放射エネルギーの大きさを第4のセンサである広帯域放射収支計による実測値と比較することで検証する。
また,地球上の限られた地点について,この手法で算定される地表面での放射エネルギーの値を地上観測ネットワークによる実測値とも比較して検証した。このような検証の例によると,大気上端での放射エネルギーフラックスは計算値と実測値との間で全地球的に概ね整合しており,雲とエアロゾルの鉛直分布を考慮した放射エネルギーの算定が大まかには実測値を説明することが示されたという。
これによって,開発された手法の妥当性と衛星観測データへの適用可能性が定量的に示されたが,研究ではさらに放射エネルギー算定における誤差の特性や要因についても調査し,特に氷を含む雲が存在する場合に誤差が大きくなることがわかった。
研究グループは,この知見は今後,EarthCARE 衛星の観測から氷を含む雲の性質を推定していく際にも役立てられるとしている。