岡山大学,住友電気工業,量子科学技術研究開発機構,北陸先端科学技術大学院大学,筑波大学は,従来の10倍以上の優れた量子特性(量子コヒーレンス)を持つ高輝度の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを世界で初めて報告した(ニュースリリース)。
蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを用いた量子センシングは,ナノスケールでの温度,磁場,化学環境の変化を高感度に計測できる技術として,生命科学やナノテクノロジー分野で大きな注目を集めている。
この技術は,細胞内の微小領域やデバイス内部の構造を精密に計測できることから,将来的には癌の超早期診断や極微量ウイルスの検出などの医療分野や,リチウムイオンバッテリーの状態モニタリングなどのスマートデバイス分野での応用が期待されている。
しかし,量子センシングの性能は蛍光ナノ粉末ダイヤモンドの電子スピン特性に大きく依存しており,このスピン特性の向上が技術の成否を左右する。特に,従来の蛍光ナノダイヤモンドでは,蛍光強度とスピン特性の両立が難しく,測定感度が劣化するという課題があった。
研究グループは,蛍光ナノ粉末ダイヤモンド中のスピン不純物(孤立窒素原子や天然炭素に含まれる約1%の13C同位体)を大幅に減少させ,スピン純度を飛躍的に向上させることに成功した。また,窒素空孔欠陥中心(NV中心)を高効率で生成するためのダイヤモンド成長法およびナノ粒子粉砕法を最適化し,含有されているNV中心が約1ppm,孤立窒素が約30ppm,13C同位体が0.01%以下に制御され,平均粒径277nmの大きさを有するナノ粉末ダイヤモンドを作製した。
その結果,光検出磁気共鳴信号(ODMR)が著しく改善され,従来の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドと比較して量子コヒーレンス時間が10倍以上延長された。
さらに,これらの蛍光ナノ粉末ダイヤモンドを細胞内に導入し,従来の蛍光ナノ粉末ダイヤモンドに比べてより高感度にODMR信号が検出できることを実証した。また,バルク結晶のみで実現されていた量子計測法の1つである,超高感度温度測定法「サーマルエコー」も観測することに成功した。
これにより,従来のナノダイヤモンド温度量子センシングに比べて1桁以上感度が向上することを確認した。
研究グループは,この研究により,ナノダイヤモンド量子センサの性能が大幅に向上され,細胞内やナノ電子デバイスの温度や磁場を超高感度で測定できると期待されるとしている。