阪大,原子核の中で陽子と中性子が渦まく運動を発見

大阪大学の研究グループは,原子核の中で陽子や中性子が3次元的な渦をまく運動状態を,世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

液体や気体の流れに渦と呼ばれる運動がある。身近なものでは,カップの中のコーヒーをかき混ぜたときや,排水溝の水の流れなどに現れる渦がその例。これらの渦は平面的なものだが,立体的な渦の中でもっとも簡単なものは,ドーナツの表面に沿って水が流れるような円環状の渦で,トロイダル渦流と呼ばれる。

原子の中心にある原子核は陽子と中性子からできている。この陽子と中性子が原子核の中で液体のように運動する集団運動状態として,回転運動や表面振動が広く研究されている。一方,渦運動の存在は50年以上前から理論予測されていたが,実験によって観測されたことはなかった。

極小の原子核の世界において,渦は量子渦として表わされ,渦の大きさを表す量が基本単位(量子)の整数倍になる性質がある。量子渦は超流動の性質をもつ液体ヘリウムや超伝導体などで観察されている。量子渦の研究は,超伝導を引き起こす機構の解明や量子の性質を持つ流体の理解に重要な役割を果たし,将来的な量子技術への応用が期待されている。

研究グループは,ドイツのダルムシュタット工科大学の実験グループとともに,核物理研究センターの加速器を用いて,ニッケル58原子核に陽子ビームを照射する実験を行なった。エネルギー分解能が非常に優れた高精度実験を成功させることで,約120個の運動状態を個々に特定することができた。

その状態の中に,電気の力で引き起こされたように見える運動状態が8例発見された。これは,過去のダルムシュタット工科大学での電子ビームの実験では,磁気の力で引き起こされたと考えられていたものだという。

電子ビームの実験データについて理論計算との比較を交えて再解釈したところ,これらの運動状態が実際には電気の力で引き起こされた渦運動状態であり,磁気の力で引き起こされた運動という解釈は誤認であることが分かった。

この2種類の運動状態の判別は非常に難しく,陽子ビームによる高精度実験と組み合わせることで可能となった。原子核の渦運動状態の特定は世界で初めてだという。

これまでに確認された最小の量子渦と比較すると,今回観測された量子渦はその1万分の1の大きさ。観測された中でもっともサイズが小さい量子渦であり,フェムトメートルスケールでの量子流体を実証する重要な発見だとする。

研究グループは発見が,超伝導体や量子流体の性質の解明に繋がり,将来的な量子技術への発展が期待されるものだとしている。

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