東京科学大学,筑波大学,東北大学,名古屋大学,名古屋工業大学は,マルチフェロイック物質であるBiFeO3の単結晶薄膜を時間幅100fsの光パルスで励起することで,分極の大きさをパルス幅以内の時間で室温でも操作できることを実証した(ニュースリリース)。
誘電分極や磁性を使った電子記録デバイスの高速化には,100fs以内で構造を変化させられる物質の探索が課題。この問題を解決する一案として,マルチフェロイック物質を光励起し,局所的に電子を注入する手法が検討されている。
これに関し,電子の注入に伴い,周囲の結晶格子が一気に変化し,電子と結晶の振動(フォノン)の強結合(ドレスド)状態が実現するという理論予測が研究グループによってされた。この予測が実現すれば,誘電分極やスピン状態を超高速で変化させられる。
研究に用いた典型的マルチフェロイック物質BiFeO3結晶薄膜は酸素8面体の中心からずれるひずみが分極の発生と密接に関係する。分極の大きさは,第二高調波発生(SHG)の強さ(SH光強度)を用いて観測できる。また2つの8面体が相対的に回転するひずみがFe原子間の磁気的な相互作用の大きさ等に密接に関連し,磁性を支配している。
この物質に100fsの時間幅のパルス光を照射すると,照射後パルス幅以内の超高速でSH光強度,すなわち分極の大きさが減少し,その後約300fsで減少量が最大変化の30%程度まで減り,さらに数万fs程度で元の大きさに戻ることを確認した。
また,分極の減少と同時に赤外波長域の吸収が増加しており,分極の変化が,光励起状態の注入と密接に関連していることも分かった。このように,光励起により100fsの時間で,分極の大きさが制御できることを確認した。
さらに,研究グループで開発したパルス幅75fsの電子線(パルス電子線発生と試料の光励起に用いたレーザー光パルス幅は35fs)による電子回折を用いた時間分解構造観測装置を活用した観測結果から,さまざまな指数の回折点強度が,光照射直後に大きく減少することが分かった。
また,その後約300fs(3.3THzに対応)周期で振動する現象を観測した。このような周波数のフォノンは光励起前には存在しないため,光励起状態の注入による新しいフォノンが生み出されたことが分かった。
研究グループは,強誘電・磁気メモリーデバイスの100fs秒以下での超高速制御,さらには光情報と電子情報とを超高速に直接変換することが室温で可能となると期待されるとしている。