富山大学,加トロント大学,加マウントサイナイ病院(トロント)は,青色光を照射すると脳内で効率的にcGMPを生成する光感受性cGMP産生酵素を開発した(ニュースリリース)。
統合失調症やアルツハイマー病,そして加齢などで環状グアノシン一リン酸(cGMP)が低下することが知られており,各種疾患に対する創薬ターゲットとしても注目を集めている。
脳内でcGMPの量を増やすにはcGMPの分解阻害薬を用いるなどの手法があったが,脳のどこでどのようなタイミングでcGMPが存在することが重要なのかなどは分かっていなかった。そのため,脳内で時間と空間を限定してcGMPの量を調節する技術の開発が求められていた。
研究グループは,青色光を照射するとcGMPを生成する光感受性cGMP産生酵素BlgCを脳内でより効率的に働くようにした。この酵素の遺伝子配列をアデノ随伴ウイルスベクターに組み込み,マウスの海馬歯状回という脳の領域に感染させることで,その部位の神経細胞だけにBlgCを発現させ,さらにその部位に光ファイバーを通じて青色光を照射することで,局所的に時間と空間を限定してcGMPを増やすことに成功した。
この手法により,海馬歯状回でcGMPを増やしたマウスの脳を解析したところ,神経伝達が促進され,また長期増強(LTP)という現象がより強く起こるようになっており,記憶や学習の基盤となると考えられる神経可塑性も促進されていることが分かった。
さらに個体レベルで行動を解析したところ,cGMPを増やしたマウスではコントロール群に比べて社会性行動が増加しており,空間記憶学習の課題では成績が向上していた。
具体的には,マウス脳内の海馬歯状回にcGMPの量を増加させると,空間記憶を評価するバーンズ迷路で,学習後24時間のテストでは成績に有意な差はみられなかったが,学習後2週間のテストでは光刺激により成績が向上し,長期記憶が強化された。
今回の成果により,脳内のどの部分でのcGMPが各種疾患の症状に関わるかの特定ができるようになると期待できる。 また,この技術を用いることで,体内のどこででも実験的に光照射によってcGMPを増すことが可能となり,体内でcGMPが減少する様々な疾患への治療法開発にも貢献することが期待できるという。
研究グループは,これらの研究成果により,統合失調症やアルツハイマー病,加齢に伴う認知機能障害への治療戦略の開発に貢献することが期待されるとしている。