東京理科大学の研究グループは,光強度を変化させることで時定数を制御できる色素増感太陽電池(DSC)ベースの光電子シナプス素子を開発した(ニュースリリース)。
光電子シナプス素子を用いた物理リザバコンピューティング(PRC)は,有望なエッジAIデバイスとして注目されており,さまざまな時間スケールの時系列データを処理するためには,目的に応じた時間スケールを持つデバイスが必要となる。
研究グループは,光の吸収波長が550~700nmのスクアリリウム誘導体色素を用いたDSCを作製した。ここに658nmのレーザーを照射し,光強度に対する過渡応答を調査した結果,光強度が0.05mWと弱い条件では開回路電圧(VOC)までに5秒,光強度が15mWと強い条件では45ミリ秒で到達することがわかった。
過渡応答に対する光強度の影響をさらに探るため,平均立ち上がり時間(τrise)と立ち下がり時間(τdecay)を求めた。光強度を0.1mWから10mWに増加させると,τriseは0.75秒から8.9ミリ秒へと急激に減少した。また,τdecayは光強度が0.1~1mWの範囲で減少したが,1~10mWの範囲でほぼ一定だった。
次に,DSCベースの光電子シナプス素子に連続パルス光を照射し,光強度の影響を調査した。0.2mWでは照射ごとに電圧が増加したが,5.0mWでは1回目の照射で電圧が飽和し,2回目の照射では増加しなかった。また,光強度の増減に伴いPPF指数が変動することが確認された。
PPF(促進)とPPD(抑制)を制御するため,1回目の光照射(P1)と2回目の光照射(P2)の強度を変化させて測定を行なった結果,P2がP1より小さい場合にPPD,大きい場合にPPFが発生した。
最後に,DSCベースの光電子シナプス素子を用いたPRCの実現可能性を検証するために,さまざまなパルス幅と光強度でのSTMタスク,PCタスクによる時系列データ処理を行なった。その結果,STMタスクでは最大C値(CSTM)が1.31,PCタスクでのC値(CPC)が1.13に達した。
また,カメラで撮影した画像を8分割し,各部分の平均輝度を時系列データとして取得し,0.1~1mWの光パルスに変換してDSCに入力した。得られた電圧データをニューラルネットワークに入力して動作認識を行なった結果,屈伸,ジャンプ,走るなどの各動作を80%以上の精度で識別でき,全体の認識精度は92%に達した。
研究グループは,この結果から,エッジAIやニューロモルフィックコンピューティングに利用可能な多様な時間スケールを持つPRCの実現が期待されるとしている。